日本の国防の方針を定めた国家安全保障戦略の柱とは?

 

国際協調を主軸にした安全保障戦略

 

 日本には半世紀以上も安全保障の基本方針を持っていなかった、と聞けば驚く人がいるかもしれない。
戦後の日本は、1957年に防衛政策の基礎として「国防の基本方針」を閣議決定している。ただし、その内容は「国際連合の活動支持と国際協調」「国家安全保障の基盤確立」「必要限度の防衛力整備」「侵略に対しての日米安保を基調とした対処」のみだった。さらには具体的な対策は表記されず、自衛隊の海外活動は想定外などの問題点も多かったのだ。
 2013年12月、第2次安倍内閣はこれに変わる方針を策定。それが「国家安全保障戦略」だ。過去の方針が自国防衛のみを重んじたのに対し、新戦略は外交・防衛の双方を包括した日本初の総合安全保障方針である。
 その基本理念は「積極的平和主義」。自国の防衛だけでなく、軍事的な手段も用いて国際社会の維持と安全のために積極行動するという概念だ。これに対して、従来のような一国のみの平和維持を目的とする理念は「消極的平和主義」といわれる。
 策定の趣旨は、国際貢献と国家安全保障への政府全体による取り組みだ。また日米同盟と国連のみならず、国際社会の主要プレーヤーの一国として、世界の平和安定への積極的な寄与を掲げている。

 

安全保障上の課題を明確化


 曖昧であった国家安全保障の目的も3つにまとめられた。第一は、日本の平和維持と抑止力の強化、第二は日米同盟と対外国との関係強化による、アジア・太平洋の安全保障環境改善、最後は外交努力と人的貢献による国際秩序の強化である。この理念を実現するため、国家主権と独立の保全、経済発展による国民の繁栄と人権尊重を国益に位置付けている。
 また国家の脅威も明確化され、大量破壊兵器の拡散、国際テロ、海賊行為によるシーレーンの不安定化が位置づけられている。さらに宇宙空間の人工衛星衝突、サイバー攻撃によるインフラ破壊のリスクも指摘し、そうした脅威に対抗するための能力強化に加え、サイバーセキュリティの強化と人材の育成、国際PKOへの積極的協力を安保上の戦略に位置づけている。
 さらに武器輸出三原則も見直し、厳正な審査を前提とした武器輸出の原則制定を進めるとした。そして最も注目するべきは、北朝鮮と中国を安全保障上の課題として名指ししていることにある。北朝鮮はミサイル及び核開発による挑発を安全保障上の脅威とし、拉致問題を「喫緊の課題」と認定している。一方の中国も、透明性を欠いた軍拡と東・南シナ海への積極的進出を注視している。ただし、中朝を完全な仮想敵国とは定めておらず、中国は戦略的互恵関係の構築、北朝鮮は国連安保理決議などに基づく包括的解決を目指すとしている。

 

国家安全保障会議とは何か?

 

 こうした戦略を指揮するのが、2013年に設置された「国家安全保障会議(NSC)」である。総理と各大臣で構成された会議の役割は、外交、情報、軍事、経済を統合しつつ、安全保障の政策を立案することだ。さらに2014年には「国家安全保障局」が常設されて、会議の調整役として運用されている。この会議の指導の下、10年を目安に戦略内容を変更することになっている。 
 ただ、この戦略にも問題点はある。前方針と同様に、脅威への対策は記載されているが、具体的な実行方法が記されていないのである。そのため実効性に欠けるという指摘がある。戦略の制定から2023年で10年目。想定通りに、2022年度末には戦略の見直しが行われる予定だ。敵基地攻撃能力の保有問題の他に、技術の軍事転用防止やサイバー・宇宙の防衛強化も焦点となるという。世界の安全保障が不安定化していく中、より現実的な防衛プランを見いだせるのか。日本の戦略にも更なる改革が求められている。
 

※本文は元原稿のため実際の掲載内容とは異なります。

 

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