3軒目の店は、社長の家のすぐ隣にある小料理屋だった。
店内にはカラオケもあり、社長は相変わらずノリノリでマイクを握っている。
お父さんも奥さんも楽しそうに場を盛り上げていて、賑やかな空気が続いていた。
しかし、私の隣では、これまた相変わらず彼女がベッタリとくっついていた。
酔いがかなり回っているのか、彼女の表情は普段とは違い、完全に緩んでいる。
「近いってば」と何度も声をかけてみたものの、こちらの言葉はほとんど伝わっていない様子。
それでも、横に座る彼女は引っ付いたまま、微笑みながら何かを話しかけてくる。
その距離感が嬉しい反面、社長たちの視線が気になり、私は終始ビクビクしていた。
何とかこの状況をやり過ごしながら、料理をつまみ、飲み物を手にして場の雰囲気に溶け込もうとした。
幸いなことに、社長たちもそれぞれカラオケや会話に夢中で、彼女と私の関係に気づくような素振りはなかった。
それでも、心臓の鼓動は落ち着かず、早くこの場が終わらないかと願うばかりだった。
そんな中、社長がふと時計を見て、「そろそろ帰ろうか」と言い出した。
その言葉に安堵したのも束の間、次の一言で私は驚きに固まった。
「お前と娘の家、近くだろう?一緒にタクシーで帰りなさい。」
一瞬、どう返事をすればいいのかわからなかった。
ただ、自然な流れで彼女と2人きりになれるチャンスに内心は動揺しながらも、「分かりました」とだけ答えた。
彼女は完全に酔っ払っていて、その言葉の意味を理解しているのかどうかも怪しかったが、私は心の中で静かに期待を抱いていた。
タクシーが店の前に到着すると、彼女と2人で乗り込んだ。
社長たちと短い別れの挨拶を交わし、タクシーのドアが閉まる音とともに、ようやく2人だけの空間が訪れた。
この瞬間から、ただの飲み会ではない、私たちの時間が始まったのだ――。