タクシーに乗り込んだ瞬間、私たちを取り巻いていた緊張が一気にほどけた。
お父さんや社長たちの視線がないという安心感が、抑えていた気持ちを解放していく。
そして、次に気づいた時には、彼女の手を強く握っていた。
お互い、もう止められなかった。
どちらともなく手を握り、自然と距離が縮まる。
今までずっと意識していたのに、もう抗えなかった。
彼女の顔がすぐそばにあって、ふわりと香る甘い匂いが心を揺さぶる。
アルコールのせいなのか、それとも別の理由なのか ただ、目の前の彼女しか見えなかった。
最初は、お互い目を合わせないようにしていた。
でも、一度視線が交わった瞬間、その均衡は一気に崩れた。
静寂の中、私たちはゆっくりと顔を近づけ、迷いもなく、唇を重ねた。
どちらからともなく。
いや、そんなことはどうでもよかった。
ただ、お互いが求め合うように、今までのすべてを振り払うように、タクシーの中でキスをした。
忘れかけていた感覚。
誰かを心から求めることが、こんなにも熱を帯びるものだということを、今さらのように思い出した。
タクシーは静かに夜の街を走り続ける。
まるでこの時間だけが別の世界に切り取られたかのように、外の景色も、タクシーの揺れも、何も感じなかった。
ただ、彼女の温もりだけが、すべてだった。
あっという間に私の家に到着した。
15分、こんなにも短い時間だったのかと驚くほど、一瞬の出来事だった。
タクシーが止まり、運転手がこちらをちらりと見た。
それでも、すぐには降りられなかった。
「帰りたくない」
言葉にはしなかったけれど、お互いの表情だけで、その思いは十分に伝わっていた。
それでも、時間は残酷だった。
タクシーの運転手を待たせるわけにもいかず、名残惜しさを噛み締めながら、彼女の手をそっと離した。
「また…」
そう言葉を交わしながら、それぞれの家へと帰る。
でも、この夜が終わりではないことは、お互いにわかっていた。
心に火をつけたこの関係は、もう戻れないところまで来ている。
この夜を境に、私たちの関係は、新しい扉を開けようとしていた――。