仕事が休みの朝。
実務者研修で提出する介護のレポート問題に取りかかった。
最近の休みは勉強部屋にした仏間でずっと過ごすことが多い。
酒をやめているとはいえアルコール依存症で、じきに48歳になる私の物覚えは悪い。
レポートの問題で出てくるのは
ICF(国際生活機能分類)だとか、
狭心症の症状だとか、
杖歩行の3動作だとか、、、。
前に見たことのある問題も忘れてしまっているから、また教科書を開く。
何度も見て読んで記憶に残そうと、付箋のついたページを開いてばかりいる。
今日もたいした成果を実感できずに昼を迎えた。
休憩しようと入った居間のカレンダーには
『断酒会メッセージ pm14:00〜』と自分の字で書いてあった。
月に1度の断酒会メッセージ。
レポートを続けようか悩んだが、休みの日に1日中家にいるのも精神的によくないと出かけることにした。
少しだけ早い気もしたが半袖のシャツに着替えた。
🚙、、、ブーン
私がアルコール依存症の治療で精神科病院に入院していたのは4年近く前になる。
そこで月に一度開かれるのが『断酒会メッセージ』で、断酒会の会員が入院患者とミーティングをおこなう。
私が入院していた時も、断酒会の先輩方が来てくれていた。
アルコール依存症で入院している患者さんとナマのやり取りができる1時間は貴重だ。
私はそこで3分位をいただき『断酒会という自助グループが何故あるのか』を自分の体験談で話す。
『断酒会メッセージ』が行われるデイケア棟の事務所を覗くと、私がアルコール病棟に入院していた時に勤務していた看護師のKさんがいらっしゃった。
私が「こんにちはー。断酒会メッセージで来たMです。」と挨拶すると、
K看護師は「こんにちはー。」と笑顔で迎えてくれた。
ミーティングルームの椅子に腰をおろすとK看護師がやって来て、少しの時間話すことができた。
私が「介護の実務者研修でスクールに通っている」と近況を話すと、K看護師は驚きを交えた表情で聴いてくれた。
入院していた時のことを覚えてくれている看護師さんに、酒をやめ目標を持って生きていることを伝えられ、嬉しい気持ちになった。
顔見知りの断酒会員がやって来て、
定刻時間に入院患者が入室した。
入院患者さんは10名くらいか。
近隣断酒会のHさんが
「えー、皆さんこんにちは。それでは5月の『断酒会メッセージ』を始めます。」と挨拶すると、
「それではN断酒会のMさん、どうぞ。」
と私をトップバッターに指名した。
私は自己紹介のあと、
【アルコール依存症者の回復】にはなぜ自助グループが有効なのかを話した。
素面(しらふ)で人前で話すこと。
同じ内容でも、話すことを重ねるうちに違う視点が加わること。
断酒会に入会すると月に2500円支払うこと。
これくらいを話すと自分で決めた3分になる。
「以上です。ありがとうございました。」
と終えた。
他の断酒会員のメッセージを聞き、入院患者さんの体験談を聴くと1時間はあっという間に過ぎた。
『断酒会メッセージ』が終わると、私はいつもろくに挨拶もせず部屋を出る。
自分の話が伝わらなかったのを感じ、いつも足ばやに部屋をあとにする。
そして帰り道、おなじことを考える。🚙、、。
精神科病院で入院治療するアルコール依存症者。
退院され、酒をやめる方は2割いるだろうか。
ほとんどの方が退院後に再飲酒(スリップ)をする。
精神科病院に入院治療するほどなのに、
「家に帰り、入院して回復した身体に酒を注ぎたい。」と熱望する。
入院していた時、半分以上は再入院の患者で、中には4回目だという強者もいた。
入院患者さんが退院後に、なんらかの自助グループに繋がる割り合いは1割ないだろう。
自力で『酒をやめる』方も1割くらいいる。
残りの8割くらいの方が再飲酒組。
アルコール依存症は進行性の病気。退院後、スリップすればカラダは直ぐに入院前以上に悪化してしまう。
アルコール依存症は怖い。
終わることなくドーパミンを欲するという脳の欲求の病気。
機会飲酒で済んでいたはずなのに、長い時間をかけて脳を乗っ取っていく。
『自分の意思で酒を飲んでいる。』
と、錯覚させられる病気。
酒は薬物。
キングオブドラッグ。
近所に100円で売ってるから気づかない。
違法な薬物やドラッグよりも怖い。
アルコール依存症者は自分の意思ではないのに、「望んで飲んでいる。」と思い込まされている。
毎回、そんな考えを巡らせながら車を走らせる。
私は自分も含めて、アルコール依存症者が酒を飲んで寿命を縮めても、それで構わない場合もあると思っている。
人生85年。
アルコール依存症者の平均死亡年齢は52歳。
寿命が30年ほど短くなる計算になるが、
本人の生きたいように生きれば良いと思う。
ただ、脳を乗っ取られる、錯覚の病気だ。
「酒をやめたいのに、やめられない。」
と悩むなら、どこかで話をできる場所をもった方が良い。
そのひとつが『断酒会』であるだけで、、、。
酒を飲んで終わる人生。
70歳過ぎてアルコール依存症になる高齢者もいるのだし、断酒ばかりが人生でもない。
毎回、ここまで考えてると家に到着する。
というはなし。

