「農福連携」畜産でも 石川県立大など 障害者施設でヒツジ飼育 効果検証/中日新聞記事・2024年5月24日 

最重点目標
 障害のある人らが農業分野で活躍する「農福連携」を畜産分野にも広げようと、石川県立大などのグループが、障害者施設の利用者にヒツジを飼育してもらい、効果を検証する研究を進めている。利用者はアニマルセラピーによって働く意欲が高まる一方、ヒツジにも特段のストレスがかからないなど、少しずつ効果が確認されてきた。今後、実用化を目指すという。
 研究は、石川県能登町の障害者支援施設「日本海俱楽部ザ・ファーム」で2017年から、ヒツジの飼育を作業に取り入れて進めている。今年3月に県立大が金沢市内で発表会を開き、成果を報告した。
 研究を統括する県立大の石田元彦名誉教授(71)によると、ヒツジは牛や馬などに比べて小さく、飼育する際の危険が少ないほか、育てれば、国産のラム肉や羊毛は需要も見込めることから着目したという。
 障害者への効果は、精神障害や知的障害がある利用者18人について、餌やりなどの作業をした場合と、紙細工など他の作業療法をした場合を比べた結果、脳内血流量の活性化が餌やりなどの作業で見られた。
 日本海俱楽部ザ・ファームの藤原(ふじはら)和也・職業能力指導員(39)も「利用者に認知症状の改善が見られた。集中して仕事をできなかった人も率先して仕事に加わるようになった」とヒツジの効果を説く。半面、研究グループは、動物が嫌いな人や、立って仕事する体力がない人には向かなかったとした。
 ヒツジの肉質にかかわるストレス度も調べた。障害がある人は必要以上に飼育動物に触れる傾向があるが、研究グループの一員で石川県立看護大の市丸徹准教授が雌6頭について2年間調査したところ、利用者と、障害がない施設職員による飼育を比べても、ヒツジの発声や毛づくろいなどの行動、ストレス指標となる血中濃度のいずれも大きな差異はなかった。
 現在13頭を飼育しているが、今後、畜産の採算を成り立たせるには、20~40頭を飼育する必要があり、大量の牧草を生産しなければならない。共同研究する電子機器製造「北菱電興」(金沢市)や富山県立大が、利用者が農業機械を運転する際に不安を感じないよう、「まいぞ(うまいぞ)」と励ましの音声が流れたり、進行方向を自然に軌道修正したりする農業機械の開発を進めている。
 「農福連携」は障害者らが農業分野で自信や生きがいを持って社会参画し、労働力の確保にもつなげる取り組みだ。畜産の事例はまだ全国的にも少ないとされ、農林水産省によると「北陸に目立った事例はまだない」という。
 石田名誉教授は「危険なときに緊急停止できる農業機械の開発も進め、6~7年後には普及を図りたい」と意気込んだ。


 

 SDGs: 「誰一人取り残さない」という考え方のもと、人種や性別、地域などを超えて地球上のみんながそろって幸せになることを目指す国連の目標。「貧困をなくそう」「すべての人に健康と福祉を」「人や国の不平等をなくそう」など17のテーマ別の目標がある。SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略。

 石川県立大: バイオや環境技術分野の専門家育成を理念に掲げて2005年4月に開学した農学系大学。1971年創立の県農業短大を4年制に発展させた。生物資源環境学部に生産科学科、環境科学科、食品科学科の3学科が設置されている。23年5月時点の学生数は552人。大学院もある。

中日新聞記事・2024年5月24日 

https://www.chunichi.co.jp/article/902863?fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTAAAR24BYSdzyIFO7r6rtjl8l5g0-70SSU9iXg_ytD0-JXUo3qSyLNkgf5u6s0_aem_Ab2yOXL6Eo0cSA8dIRmgnQf0tqoF3qVeAmdK-Vmqt-hWqsnS5zg6qFOx90kZGmcTxVrvKw9mFNZeDQOQTeYP--qC