障害持つ娘のために喫茶店 檜原に移住の仲田さん 娘、ケーキ作りや接客に奮闘/読売新聞記事・2024年3月23日

 檜原村 人里へんぼり の小さな集落に多摩市から移り住んだ仲田美治さん(67)が、喫茶店「茶房へんぼり」を今年1月にオープンした。聴覚障害を持つ長女の真由美さん(36)が働ける場所をつくるために、一家3人で移住した。仲田さんは「障害を持っていても、チャンスを生かせる場所にしたい」と話している。

■メニュー指さし注文
空き家を改装して今年1月にオープンした「茶房へんぼり」
 JR武蔵五日市駅(あきる野市)からバスで50分ほどの山あいの集落に、空き家を改装した茶房へんぼりがある。店内は、畳敷きの座敷となっており、レトロな雰囲気を醸し出している。

 今月15日、開店前の店内では、仲田さんが朝礼で、妻の智津子さん(66)と真由美さんに「たくさん笑顔でお迎えしよう」と話していた。

 

 午前10時頃にオープンすると、男女3人の客が来店。笑顔で迎えた真由美さんに、コーヒーやケーキをメニュー表で指さして注文した。3人はケーキに舌鼓を打ったり、仲田さんと話をしたりして思い思いの時間を過ごしていた。

■長女の働ける場を
 仲田さんは1979年に京王電鉄に入社し、広報などを経て、御岳登山鉄道(青梅市)の社長になった。2018年に退職し、その後の4年間は同社の相談役を務めた。

 真由美さんは、ろう学校を卒業してから、パンの製造会社で働いていた。しかし、コロナ禍で出荷先のレストランやホテルが休業になり、職場の業績が悪化したため、20年頃に失職した。

 仲田さんは「娘は再就職をしようにも、聴覚障害という理由だけで門前払いされた」と振り返る。真由美さんは、新しい職場が決まらず、家にこもりがちになってしまった。

 「仕事をしたいと頑張る娘が働ける場所を自分でつくろう」。仲田さんは、真由美さんの姿を見て決意した。手先が器用な真由美さんは、ケーキ作りが好きで、仲田さんは趣味でコーヒーをいれている。「この二つを組み合わせるなら、喫茶店がいいんじゃないか」とひらめいた。

 21年から物件探しを始めた。御岳登山鉄道時代に交流があった人たちに相談する中で、建物を紹介してもらった。「水がおいしく、これなら良いコーヒーがいれられる」。周囲の自然が豊かなこともあり、檜原村への移住を決めた。

■感謝の言葉励みに
 様々な準備を終え、今年1月28日に茶房へんぼりはオープン。仲田さんは「娘が1人で店の運営をできるように」と、ケーキ作りだけでなく、接客も真由美さんに任せている。

 聴覚障害者が接客しているということを客に理解してもらうために、メニューに「聴覚障害を持つスタッフが接客をすることがあります」などと記載したり、真由美さんのエプロンに、聴覚障害を知らせる缶バッジを付けたりしている。

 店は近所の人や登山者たちの憩いの場所にもなっている。人気メニューは、ドリンクと、旬の食材を取り入れた真由美さんの作るケーキがセットとなった「ケーキセット」(900~1000円)だ。真由美さんは「お客様が『おいしかったよ』『ありがとう』と手話で伝えてくれることもあって本当にうれしい」と笑顔を見せる。

 仲田さんは「娘が楽しそうに働いていて、移住してきて本当に良かった」と目を細める。店の経営がある程度落ち着いたら、さらに店の魅力を高めるために、一家で新しいメニューの創作に取り組んでいくつもりだ。



 「茶房へんぼり」は、午前10時から午後4時まで営業。水曜と木曜が定休日。問い合わせは、同店(042・588・4343)へ。

読売新聞記事・2024年3月23日

https://www.yomiuri.co.jp/local/tokyotama/news/20240322-OYTNT50196/?fbclid=IwAR0zyvCHUEuzp8C7j_p6FUSJj0CmpF0lJPSdFKXjN0tR0L29bEKXsxYAt_M