聞こえないからこその世界がある ろうの写真家2人が鎌倉で写真展/朝日新聞デジタル記事・2024年1月12日 

 

 聴覚に障害がある写真家武井金史(きんじ)さん(75)と徳丸弘さん(63)=いずれも神奈川県鎌倉市在住=が、19~22日、鎌倉市の鎌倉芸術館で「二人展」を開く。ろう者ならではの着眼点で捉えた自然や風景などの作品が並ぶ。

 武井さんは2歳の時に病気で聴力を失った。幼いころには聞こえないことで家族とうまくコミュニケーションが取れないことがあった。18歳のとき、カメラを持った先輩に撮影に無理やり付き合わされ、絞りやシャッター速度などを教わったことをきっかけに写真に興味を持ったという。

 アルバイトや契約社員の仕事をしながら全国各地を旅して写真を撮り続けた。今ほど手話通訳がいなかった当時は、苦労したこともあった。だが「耳が聞こえないからできない」とは全く考えなかったという。

 これまで様々な写真コンテストで多数の受賞歴があり、個展を開いたこともある。

 徳丸さんは生まれつき耳が聞こえない。ろう学校高等部のとき新聞配達のアルバイトでためたお金でキヤノンのカメラを買った。いすゞ自動車で約42年間、車のモデル造形の仕事に従事。仕事の傍ら四季の風景の中を走り抜ける鉄道を撮り続け、定年退職後も撮影を続けている。

 2人はフェイスブックで互いの写真作品を知って連絡を取り合うようになり、今回の作品展が実現した。

 武井さんは徳丸さんの作品について「被写体の捉え方がいい」、徳丸さんは武井さんについて「構図が自分とは違って面白いと感じた」と互いを評価し合う。

 今回の作品展のテーマは「聞こえないからこその世界がある。」。「視覚だけでなく体の感覚も使う」という武井さん。ろう者としての着眼点と感性で被写体に集中し、瞬間を捉えるという。炎や水、樹木などを写した作品は、タイトルの付け方が独特だ。開いた花びらの形から「蛇の花なの」、鳥たちが何か話し合っているようにも見える作品には「おいおい、夫婦でもめるな」など、ユニークなタイトルで表現する。

 徳丸さんの作品は、花や空とともに走る列車を捉えている。足元に揺れるススキと江ノ電の電車や、山陽新幹線博多―小倉間を走る点検用新幹線車両「ドクターイエロー」の写真もある。

 徳丸さんは「写真には空がないと感動がないと感じている。これからも四季折々の空と花、列車を撮り続けたい」。武井さんは「将来はろう者と聴者をつなぎ、様々な作品を集めて写真展ができるようにしたい」と先を見据える。

 入場無料。午前9時半~午後6時で、初日は午後1時から、最終日は午後4時まで。JR大船駅徒歩約10分。


朝日新聞デジタル記事・2024年1月12日 
https://www.asahi.com/articles/ASS1C6WVWS19ULOB002.html?fbclid=IwAR2qsAhxc7CWWPwyb5DmcIrtQOs4yydelIpJzDHyWUntuPI_47sLc4I4Ikw