みずみずしい夏野菜が店頭にならぶ季節になりました。ナスもトマトもキュウリも、いまでは一年中みかける野菜なわけですが、夏の地物はピカピカしていて、よりおいしそうにみえます。おいしいうえに安いのですから、惹かれないわけがないといえます。

 こどものころは、ナスもトマトも食べたいとは思いませんでした。それがいまではおいしそうにみえるというのですから、不思議なものです。

 

 トマトの味は昔にくらべると、かなりマイルドになったと思います。すべてのトマトがフルーツトマトのような味になり、クセがなく、食べやすいようになりました。ほんとうにフルーツのような甘酸っぱさで、もはや野菜ではないといってもいいくらいです。

 トマトはそのまま食べることができますが、皮をむくと果肉だけになり、やわらかく、ジューシーさが際立ちます。トマトの皮は薄いので、包丁を使うときれいにむくことができません。

 

 トマトの皮をきれいにかんたんにむくためには湯むきをします。沸騰したお湯にトマトを入れて、皮が破れたら取り出し、氷水に入れて冷まします。

 これでトマトの皮はむけやすくなっているので、あとはペティナイフを使って取り除きます。ちなみに、湯むきしたトマトは手で皮をむけますが、調理師はペティナイフを使わないといけない慣習になっております。

 

 湯むきするときは沸騰しているお湯でないといけません。高温でトマトの皮だけに熱を伝えたいからです。沸騰前では温度が低いので、皮が加熱されるまでに時間がかかってしまいます。トマトを長い時間お湯に入れていたら果肉のほうまで加熱されてしまいます。

 湯むきの目的は皮だけを加熱することであり、トマト全体を加熱してしまうのはよくないのです。最後に氷水に入れるのも、急激に冷ましてトマトの温度を下げ、中まで火が通るのを防ぐためです。

 

 湯むきは、皮と果肉の細胞のサイズがちがうことによって可能になります。果肉よりも、皮の細胞のサイズが小さいので、早く熱が伝わり、皮だけがちぢみます。急激にちぢむと皮が破け、むきやすくなるのです。

 湯むきする前、トマトの皮に十字に切り込みを入れたりする場合がありますが、私は切り込みはなくてもいいと思います。切り込みを入れなくても、どこかは皮が破れてくれるからです。

 

 皮に切り込みを入れると、果肉にお湯が直接触れるきっかけをつくることになります。トマトの果肉はできるかぎり加熱したくないのですから、お湯との接点をわざわざつくることはないと思います。

 トマトをお湯に入れている時間はトマトの状態によって異なります。完熟したトマトは数秒で皮がめくれますし、かたいトマトなら1分くらい入れているときもあります。トマトをお湯に入れるときは、ヘタがあるほうから入れます。ヘタのほうが身がかたいので、加熱時間の差をつくるためです。