暖色系の赤は、料理において重要な色だといえます。有名な食品のパッケージにも赤が使われていることが多いと思います。いちばんに目に飛び込んでくる色で、目立つところが赤のいいところです。

 料理では、トマトをメインで使ったものが代表されます。赤い見た目が印象的な料理というとナポリタンだと思います。

 

 ナポリタンは、スパゲッティですから和食ではないです。しかし、スパゲッティの故郷のイタリアにナポリタンがあるかというとそうでもありません。カレー、トンカツと同様に、ナポリタンも日本独自の洋風料理なのです。

 フランス料理では、トマトを使った料理にナポリ風、ナポリテンヌ(napolitain)とつけることがあります。ナポリタンのメイン食材はトマトケチャップだともいえるので、ナポリ風という言葉が当てられてもまちがってはいないと思います。

 

 ナポリタンが生まれた背景には、戦後の進駐軍の米兵の存在があります。米兵が、ゆでたスパゲッティをトマトケチャップで和えて食べていたのをみて、当時の料理人がアレンジしていったのがはじまりとされています。

 スパゲッティも、語源になったナポリもヨーロッパにつながるものですが、ナポリタンが生まれた背景にはヨーロッパは関係していません。ナポリタンという料理を分解すると、ヨーロッパではなくアメリカの要素が多いところが、ほかの洋食とのちがいだと思います。

 

 歴史と格式のある有名ホテルのメニューには、現代的なフランス料理とはべつに、昔ながらの洋食が取り入れられていることが多いと思います。

 伝統のホテルカレーとか、こだわりのビーフシチューといったふうに、古くからのレシピを尊重した料理が残されているのです。そういう料理は、廃れていくどころか、むしろそのホテルの看板メニューとして、威厳を高めることにつながっています。

 

 カレーは、安ければ千円以内で食べることができ、一般家庭で作ることもかんたんにできる料理です。そんな庶民派のカレーが、ホテルの格が上がるにつれて、ウン千円にもなってしまうのです。

 ランチのコース料理と同じ値段であるにもかかわらず、その値段でカレーが成立するのは、味もさることながら、歴史と格式とブランド力があるからです。

 

 庶民派のカレーが、高級老舗ホテルのメニューブックに載っていても違和感がないのは、カレーが生まれた背景にヨーロッパの文化があるからだと思います。カレーのほか、ビーフシチューやローストビーフといった日本になじみ深いフランス料理には、明治期から培わられてきた歴史と文化があり、それが料理のブランドを高めることにつながっています。

 

 ナポリタンのバックボーンはアメリカで、アメリカといえばファストフードの発祥の地です。ナポリタンに使われるケチャップも、かんたんに、すばやく、おいしく味付けでき、しかも安いという、ファストフード的な調味料だといえます。ナポリタンがカレーやビーフシチューのような存在になれなかったのは、アメリカ的な背景から脱することができなかったからだと思います。