お酒は飲んでいるときよりも、飲みたいお酒を選んでいるときのほうが楽しいと思うのは私だけでしょうか。酒類量販店にいくと、さまざまなお酒がならんでいて、見ているだけで幸せな気持ちになります。

 また、こだわりのお酒だけを取り揃えているような、専門的な酒屋にいくのもおもしろいと思います。店主がひとりでやっているような店舗では、お酒に関する情報をくわしく教えてくれるので、とても勉強になります。

 

 地元の酒屋で、地下にワインセラーが完備されている店舗があり、何回いってもそのたびにドキドキして、慣れることがありません。

 そこにあるワインは、わりと一般的なものばかりで、高級ブランドワインがあるわけではありません。それでも、洞窟に隠された財宝を探しにいくような感じがして、ふつうのワインでも、とても価値があるもののような気分があじわえます。

 

 お酒を選ぶときは、ワインにしようか、日本酒にしようか、ウイスキーにしようか、からはじまります。最初から、これが飲みたいと決まっているときは、それでいいですが、なにを飲もうかな、と考えることじたいが楽しいと思います。

 自分で飲みたいお酒を考えるのは楽しいですが、プレゼントなどで、だれかのためのお酒を考えるのもおもしろいといえます。

 

 まず、相手の好みにあうお酒を思い浮かべて、そのつぎにどんな銘柄にしようか考えます。人気がある有名な銘柄や、高級ブランドのお酒を買えば、だれにでも喜んでもらえます。しかしそれではおもしろみがないと思うのです。

 私の場合、お酒をプレゼントするような知り合いは同業者であることが多いです。飲食業のプロの方々に、ほんとうに喜んでもらうためには、品質や価格やブランドだけでは足りないのです。驚かせる、とか、はじめて見た、というような「ひねり」が必要なのです。

 

 お酒のプレゼントというと、失敗談がひとつあります。月1回くらいの回数で、会社の先輩の家に集まって飲み会をしていたことがあります。お酒はみんなで、それぞれ持ち寄ってきていました。

 最初は、自分で飲んでいておいしいと思ったお酒を持っていっていましたが、回数を重ねていくと、「持ちネタ」がなくなってしまいます。そのころは、あの芋焼酎バブルのころでした。私はとある酒屋で『佐藤』を見つけました。『佐藤』は有名ブランドですし、まだだれも持ってきていなかったので、ちょうどいいと思って購入しました。

 

 あのときは芋焼酎がほんとうに手に入りにくかったので、私としてはみなさんに喜んでもらえると確信していました。しかし、実際はまったくの逆になってしまったのです。

 飲み会当日、「どんな酒もってきた?」と聞かれて、「はい」と『佐藤』が入ったビニール袋を渡しました。袋から出してビンを見るなり、「うわっ」と大きな声が上がりました。

 

 「これはダメだろ」と、まさかのダメ出しです。ダメ出しの理由は、飲み会の主催者である先輩のきらいな上司の名前が『佐藤』だったからです。言われてから私も「あっ」と気づきましたが、もはや手遅れです。

 先輩はほんとうにイヤそうな顔をしています。これから飲み会をはじめようというのに、完全に場がしらけてしまいました。その日の、それ以降のことは記憶がありません。ただただ私は恐縮してしまって、はじっこで小さくなっていたと思います。結局、『佐藤』を飲んだのかどうかすら覚えていないほど、ショックだったのです。

 

 お酒は、知名度や価格やブランドだけで選んではいけないのだと学びました。念のためですが、『佐藤』はすばらしい焼酎であり、なにも問題はありません。ただ、私とは縁がなかった、というだけです。