今年も桃の花をみることができました。うちの近所には桃の畑があるので、わりとかんたんにみることができます。濃いピンク色で、サクラよりも大きい花をつけています。

 私が住んでいるところでは、桃の花はサクラと同じくらいか、すこし遅れて開花します。ですから、サクラが咲くと私の頭の中は、桃の花も咲いているから見に行かなければ、という気持ちになります。

 

 サクラはいたるところで見ることができますが、桃の花はそうでもありません。また、作物として考えると、柿や栗よりも見かけることは少ないと思います。ふだんの生活圏内で、桃の花を見ることができるのは貴重だといえるので、毎年いちどは見たいと思っています。めずらしさのほかに、私が桃の花を見たいと思う理由は、三国志に影響されているからです。

 

 三国志には数々の名場面があります。その中で、序盤にでてくる名場面が『桃園の誓い』です。劉備、関羽、張飛の三人が義兄弟の契りを交わすのですが、その場所が桃の花が咲く桃園なのです。

 三人は義兄弟になるのと同時に、死ぬときは三人一緒という誓いを立てます。このときのセリフが、「同年、同月、同日に生まれずとも、同年、同月、同日に死すことを誓う」というものです。劉備軍団がかっこいいと思える、最初で最後のシーンではないかと思われます。

 

 桃園の場所は特定されていませんが(そもそもフィクションなので)、たとえどこであっても、桃の花が咲く場所というところに意味があるのだと思います。

 桃は魔除けや邪気を払う、神聖な果物とされています。その花が咲く場所で行う誓いですから、誓いそのものにも真摯で、清廉な印象をもたせることができます。

 誓いを立てる場所が梅園では、おめでたい感じはしますが、神聖さはありません。桃の花の下だからこそ、死を覚悟するセリフも映えるのだと思います。

 

 また、桃園には、パワースポット的な要素もあるといえそうです。桃太郎が、鬼を退治するほどの強いエネルギーをもっていたのも、桃から生まれたからです。桃の種は桃仁といって生薬、漢方として用いられます。桃には魔除けだけでなく、実際に効用があるのです。

 桃がつく言葉には桃源郷もあります。桃源郷は、仙人が住む理想郷という意味で、そこは桃の木に囲まれているといわれます。

 桃は不老長寿の象徴ともいわれ、仙人の食べ物ともいわれます。さまざまなパワーを秘めた桃がある場所は、特別な場所であるといえそうです。