最近、昆布の出汁の味がわかるようになりました。和食では、出汁の味が料理の全体の味を決めます。昆布の味と鰹節の味がしっかりとした出汁でないと、おいしい料理はできないのです。昆布の出汁は料理の味を下から支えるようなイメージです。昆布のうまみがうまく出ている出汁を使うと、そのあとの料理の味付けがラクになります。

 

 昆布の味が出ているかどうかは、実際に飲んで確かめるしかありません。料理の本をみると、昆布は10分で沸くくらいの火加減で加熱すると書かれています。私も最初は15分で沸く火加減で煮ていって、沸きそうになったら取り出す、と教わりました。

 しかしながら、10分、15分といっても、ガス台の性能や鍋の大きさ、素材によって加熱ぐあいは変わるので、それが絶対正しいとはいえません。何分であろうと、昆布のおいしい味が出ていればいいわけで、それには味を確認するのがいちばんいいと思うのです。

 

 ただ、昆布のおいしい味といっても、昆布だけの出汁がおいしいものなのかは正直なところわかりません。昆布だけ煮出した出汁は、甘いとか、しょっぱいとかの、わかりやすい味ではないからです。

 私は昆布の味が出ているかどうかが、よくわかりませんでした。はっきりとした味がなく、なんとなく、ぼわっとする、くらいにしか判別できなかったのです。それでも何回も味見をして、昆布の味に慣れてくると、味の変化や違いがわかるようになりました。

 

 昆布はうまみの発見の元になった食材で、うまみ成分のグルタミン酸が豊富です。昆布の出汁の出ぐあい確かめるのに味見をするのですが、純粋にうまみ成分だけのものを味見するのは、意外とむずかしい気がします。昆布だけの出汁の味を、どう表現すればいいかがわからないからです。

 わからないなりに表現してみますと、昆布だけの出汁の味は、『まろやかになったお湯』と、いえるかもしれません。はっきりとした味はないのですが、ただのお湯とはちがうのです。かといって、出汁のおいしさがあるわけではないのです。

 おいしい出汁になるのは、鰹節のうまみが加わってからであり、昆布だけでおいしい、とはいえないと思います。おいしくないけれども、昆布の味は味として、認識しないといけないところが、昆布の出汁のむずかしさだと思います。

 

 昆布もいろいろな種類があるのですが、利尻昆布の出汁は、おいしい、と思います。真昆布よりも味がはっきりとしていて、コクも感じることができるからです。

 真昆布がシラー種などのフレッシュさがある軽やかなワインだとすると、利尻昆布はカベルネ・ソーヴィニョンです。豊かな風味と、重厚な味わいがあるのです。

 

 うまみ調味料を多く摂取すると、口の中が乾いてきたり、膜が張ったような感じがします。ゴワゴワするというか、口の中がおかしくなるのはたしかです。

 昆布の出汁を何回も味見していると、そのときと同じようになります。それだけ昆布のうまみが出ているともいえ、さすがうまみの元祖だと思ってしまいます。