出汁をひいて、そこに味噌を溶かすと味噌汁ができます。味噌汁を作るのはかんたんな作業といえますが、あじわいはとても繊細なものです。出汁がうまくできていると、それだけでおいしいと感じてしまうので、加える味噌の量が少なくても、成立してしまうような気がします。

 味噌汁を作るときの味噌は、味を確かめながら、少しずつ溶かしていきます。味噌をある程度の量を加えると、ただの出汁から味噌汁に変わっていきます。

 この段階で、完成といってもいいのではないかと思い、味噌を入れるのを止めてしまうことがあります。しかし。この段階では、味噌の量がまだ足りない、といえます。ちょうどよい味噌の量を判断する材料が味以外にもあるのです。それは味噌の香りです。

 

 出汁に味噌を加えていくと、ある時点で、味噌がはなやかに香るようになります。味噌の香りがわかりずらいときは、まだ味噌の量が足りていないのだと思います。

 そこから、少し、また少し、と味噌を加えていくと、味噌の香りがはっきりと感じられる場面がでてくるのです。出汁の香りよりも、発酵からくる味噌の甘いような香りがつよくなったところが、出汁と味噌の味のバランスがとれた合致点だと思います。

 それ以上味噌を入れてしまうと、味噌の塩辛さがでてきてしまいます。味噌の味が濃いというよりも、しょっぱさだけが勝ってしまうのです。

 

 しょっぱくなってしまったときは、出汁で伸ばすしかありません。出汁をつよくして、もういちど味噌との味のバランスがとれる地点をさがすのです。いちどバランスがとれるポイントを逃すと、ふたたび見つけるのはむずかしいものです。

 味噌のとがった塩辛さを和らげるには、酒を少量加えるのも効果的です。カドがとれてマイルドな風味にすることができます。

 加える酒は煮切り酒がいいと思います。煮切ってアルコール分をとばした酒でないと、味噌汁にアルコールの香りがついてしまうからです。

 

 味噌の香りが出てきて、これ以上味噌を入れるのはむずかしい、けれども味がいまいち足りない、というときもあります。こういうときは出汁がうまくできなかったときです。

 鰹節の風味がうまくでていないと、出汁にボリューム感がないというか、なんだかはっきりとしないのです。コクが弱いといってもいいのかもしれません。

 味噌汁にコクが足りないと思ったときは、ほんの少しだけ濃口しょうゆを加えます。数滴といった量を加えただけでも、味がくっきりとして、メリハリがつきます。

 

 場合によっては味醂を加えることもありますが、いずれの調味料も使用量はほんのわずかです。味噌汁の味は、味噌と出汁によってつくられるものであり、調味料で味付けするものではないのです。すこしの調味料で、味わいが変化する味噌汁は、見た目よりも繊細な料理だといえます。