エシャロットという野菜があります。フランス料理ではソースを作る際には欠かすことのできない野菜で、調理師にとってはなじみ深いものです。エシャロットはタマネギの変種だそうで、皮が茶色のところなど、似ているところが多いです。タマネギよりも小ぶりで、細長い形をしています。
エシャロットは、タマネギにくらべると香りがマイルドで、辛さも少ないのが特徴です。エシャロットの代わりとしてタマネギでもいいのかもしれませんが、タマネギだと味が濃いのです。味というより存在が濃くなるというほうが適当な気がします。タマネギは、味も香りもありすぎで、自己主張が強いのです。
味も香りもマイルドで控えめなエシャロットのほうが、ソースを作るうえでは他の素材とうまく調和をしてくれるのです。エシャロットとタマネギの関係は、セルフィーユとパセリの関係と同じだと思います。
エシャロットはスーパーでも見かけることがありますが、あまり売れている感じはしません。おもにベルギーやオランダから輸入されていて、季節を問わず並んでいます。
エシャロットがナスやジャガイモのように、料理のメインとなれる野菜であれば販売量も増えそうです。タマネギの代わりに使ってもよさそうですが、それならタマネギのほうが値段も安く、量もとれます。一般家庭にエシャロットが溶け込むことは、今後もむずかしいと思われます。
スーパーの野菜コーナーには、エシャロットとは一字ちがいの名前をもった野菜もあります。それがエシャレットです。
エシャレットは商品名のようなもので、本来は根ラッキョウといわれます。エシャロットはタマネギの仲間だといえますが、ラッキョウであるエシャレットは、植物としては近いかもしれませんが、食材として考えるとまったく別のものといえます。
最近はなくなりましたが、昔はこのエシャロットとエシャレットが混同されていて、まちがって納品されることもありました。調理師は、エシャロットというとタマネギに近いもののほうしかありえないのですが、八百屋さんのなかには、エシャレットのほうがなじみがある場合もあるのです。
その場合は「エシャロットといえばこれでしょ」とラッキョウ型のエシャレットが納品されてしまいます。タマネギに近いエシャロットがほしいときには、ベルギーエシャロットで注文すると、まちがいがなくなります。
こんなややこしいことになったのは、偶然なのかと思われるかもしれませんが、偶然ではありません。最初から仕組まれたことなのです。
ラッキョウを生育段階で軟白化させて、生で食べられるやわらかいラッキョウを作ったのですが、名前が根ラッキョウではよくない、となりました。そこで、商品名を考えることになって、細長い丸型がエシャロットに似ているというところからエシャレットになったのです。
ですから、ややこしくなることは承知の上というか、確信犯的にエシャレットという名前はつけられたのです。なかなかしたたかな農家さんだと思います。