味のあらわす言葉には、甘い、すっぱい、辛い、などあります。これとは別に、さっぱり、すっきり、まろやか、といった言葉もあります。これらの言葉は、料理の味の印象を補完しつつ、全体的な雰囲気を伝えるときに使われます。

 自分以外の人に料理の味を伝えるためには、共感を生む表現をしなければなりません。甘いといっても、その人の感じ方により、さまざまな甘さがあります。そのときの甘さが自分にあうものかどうかを判断するために、すっきり、まろやか、などの言葉が付け加えられるのです。

 

 この仲間の言葉に、こっくり、というのがあります。ときどき使われる表現ですが、わかるようなわからないような、すこしあいまいさがある言葉です。あいまいさというのは、さっぱりやまろやか、よりは知名度が低いので、共有するときにお互いに認識のズレが生じやすいという意味です。

 あるとき、人から「こっくりとした感じで…」といわれたことがあったのですが、私は頭のなかには「?」が浮かんでいました。なんとなくはわかるのです。しかし、そのなんとなくを説明して、といわれると、うまく表現できないのです。言葉というのはむずかしいものだと、あらためて思います。

 

 「こっくり」は、辞書にも載っている言葉で、味が濃く、深みがある、と書かれていました。私の印象では、煮物に使われることが多い表現かと思っています。コクがある、とか、出汁が染み込んだといった、いかにもごはんに合いそうな味をイメージします。

 似たような言葉では、「こってり」、「まろやか」があると思います。こってりというと、脂が多い感じがします。まろやかは口当たりがやさしいようなイメージです。「こってり」と「まろやか」の間に入るのが「こっくり」ではないかと私は思います。

 

 「こっくり」は昔からある言葉で、江戸時代には着物の色合いを表現する言葉だったようです。色合いとして、濃い、深みがある、という意味だったのですが、いつからか料理の味の表現にも使われるようになりました。

 私のなかで「こっくり」は、味噌を使った料理に合う言葉のような気がしています。甘さと塩辛さのバランスが絶妙で、コクやうまみもよくでている味噌煮のイメージです。甘さも砂糖のような直接的な甘さではなく、しぜんな穏やかな甘さです。見た目以上に複雑な味わいをもつ味噌をあらわすのに、「こっくり」は合うと思います。