どんな企業にも、経営理念があると思います。創業者の想いや、企業のアイデンティティを示し、具現化するために必要なものだからです。

 『清く 正しく 美しく』は宝塚音楽学校の校訓であり、宝塚歌劇団のモットーとして有名な言葉です。宝塚歌劇団の創設者で、阪急電鉄を発展させた小林一三氏が遺したもので、タカラジェンヌはもとより、タカラヅカのファンのあいだにまで影響をあたえてしまう言葉です。

 社員だけが守ればいい、いち企業のモットーなのに、好きすぎて、本来まったく関係のないファンまでもが守ろうとしてしまうのです。これほど影響力をもったモットーは、ほかにはないのではないでしょうか。

 

 自分が勤務している会社の理念やモットー、社訓といったものは、覚えていなくてはならないものだと思います。その企業や創業者の根本的な部分が詰まっているものですから、大切なものなのです。

 経営理念や社訓を、社員同士が共有しあうことで、行動や発言に一貫性が生まれます。会社の業績が良いときは、だれでも進んで働きます。問題は、業績が落ちてきたときや、なにかあったときに、会社全体がひとつにまとまることができるかです。社員同士で共有できるものが、給料やボーナス、上司への批判だけでは寂しすぎます。

 

 社員間に、経営理念や社訓が浸透していれば、やるべきこと、進むべき方向はしぜんに定まっていくと思います。山で道に迷ったら、元の場所まで戻るのが鉄則です。それと同じように、会社での行動で迷ったときに戻る場所が、経営理念や社訓にあたると思います。

 とはいうものの、社員全員が、理念や社訓を覚えているかというと、そうともいえないときもあります。『清く 正しく 美しく』のように、覚えやすいものであればいいのですが、文章になっていると、むずかしい場合もあります。

 

 私は経営理念や社訓は、学校の校歌のようだと思っています。学校の校歌は、生徒はかならず覚えるものです。校歌の中には、その学校の歴史や教育方針、理想といった想いが込められています。その点で、経営理念や社訓と同じではないかと思うのです。

 学校の校歌は、入学したあと、わりとすぐに覚えてしまうものですが、会社の経営理念や社訓を覚えてくれないのはなぜなのだろうと思います。大人はいろいろと、くだらないことを持ち込みすぎるからかもしれません。