最近、野菜を切るのがいちばんむずかしいのではないかと思っています。野菜は肉や魚よりもかたいので、形がはっきりと残ります。

 肉や魚は身がやわらかいので、多少ごまかすことができることもあります。また、熱を加えるとちぢんだりして、形が変わります。形が変わることがわかっているので、切るときに気をつかう必要もあまりないのです。重量や大きさが合っていれば、それでいいと思います。

 野菜は熱を加えてもちぢんだりしないので、切るときに形が整っていないと恰好がつきません。調理する食材をすべてを同じように、形を整えて切ろうと思うと、むずかしいと感じるのです。

 

 野菜の中で、切るのがむずかしいのは、ツマではないかと思います。ツマは刺身に添えられるもので、大根がよく使われます。

 ツマは、大根をかつらむきににしてから千切りにしていきます。ツマを切る作業は、その人の技術や性格、仕事への姿勢など、いろいろなことが反映されると思います。というのは、できあがったツマをみると、なんとなく、だれがやったのかがわかってしまうからです。切る人によって、味や食感が変わり、日持ちもちがってくるのです。

 

 長さと太さが均一で、きれいにそろったツマは、水に放つとまっすぐに伸び、大根のみずみずしさを感じられます。水に放したときに、まっすぐに伸びるのは、大根の繊維がまっすぐに、整えられて切られているからです。かつらむきをしたときに、厚さが均一かどうかがポイントになってきます。

 包丁を動かすときに曲がってしまったり、刃の角度が安定しないと、厚さがそろいません。帯のようにむかれていくなかで、上下で厚さがばらばらになっているのです。この状態で千切りにすると、ツマ一本のなかに太いところと細いところがあるものができます。千切りのときに、がんばって細く切ったとしても。厚さがばらばらなのはカバーすることはできません。

 

 かつらむきの厚さがそろって、きれいにむけても、油断はできません。千切りのときに丁寧に切らないと、太いツマになってしまいます。千切りするときは、前に進んでいるのかどうかがわからないくらい、うすく細く切っていきます。

 早く切ろうと思って、前に進むことに気持ちがいってしまうと、すぐに太くなってしまいます。また、早く、リズミカルに包丁が動いているときは、下まで切れていないことがあります。

 

 千切りにするときは、かつらむきした大根を何重にも重ねて切ります。包丁を早く動かすことに気がいってしまうと、刃が下の大根まで届いていないことがあるのです。そういうときは、ツマが、すだれのようにつながったものになります。つながったツマは、太いツマよりカッコ悪いように感じます。

 ツマがつながってしまうのは、包丁の動かし方のほかに、まな板がゆがんでいることが原因のときもあります。樹脂製のまな板は、強い衝撃などでゆがんでしまいます。切るときには、包丁だけでなく、まな板の状態にも気を配らないといけないのです。