私は、和包丁を研いでみて、はじめて刃がつくという状態がわかりました。両刃の洋包丁を研いでるときはあいまいだったのに、和包丁でわかったのは、和包丁が片刃だったからだと思います。

 包丁を研ぐときは、まずオモテ面のほうを切先から順に、刃元まで研いでいきます。刃元まで研いだら、今度はウラ面を切先から順に、というのをくりかえして、刃をつけていきます。

 3回くらいくりかえして研いでいると、刃が反り返ってきます。研いでいる面の側に、刃のキワがすこしだけ反り返ってくるのです。刃が反り返ってくることが、包丁が研げているサインです。見た目にはわかりませんが、指のはらで刃を触ると、カギ状に返っているのがすぐにわかります。

 刃が反り返ってきたら、その反対側を研いで、反り返りを直します。そうすることで、刃の先の組織が整えられ、よく切れる包丁になるわけです。

 

 包丁の刃を断面にしたときに、両面から均等にとがっていて、きれいな三角形になっているイメージを目指して研いでいきます。両刃の洋包丁では、この両面から均等に、という状態にするのがむずかしいのです。

 理屈としては、両面を同じ回数研げば、均等に刃がついているはずです。同じ回数研ぐだけであればかんたんなことです。なにがむずかしいかというと、同じ回数を、同じ角度、同じ力加減で研がなければならないところです。

 刃が短い包丁であればまだいいのですが、刃が長い牛刀ではたいへんです。一般的に、砥石に対する包丁の角度は、10円玉の厚さといわれます。10円玉の厚さの分、包丁を傾けるということです。力加減については、包丁を手前に引くときに力をくわえて研ぐといいといわれます。

 角度にしても、力加減にしても、一定を維持しなければ、両面に均等に刃がつけることができないといえ、均等にするために試行錯誤するのです。

 

 均等にしなければよく切れる包丁にならないのは、両刃の洋包丁だから起こることで、片刃の和包丁では、その手間がすくなくて済みます。

 片方だけを研いでいって、反り返しがついてきたら、反対側を研ぐだけです。片面だけに刃をつければいいだけで、均等にとか、刃のバランスとかを気にしなくていいのです。

 さらに、和包丁にはしのぎの部分にあらかじめ角度がついているので、研ぐときはその角度に合わせればいいだけです。角度に悩むことも、ずれることもありません。このような和包丁の特徴のもとで包丁を研ぐことで、刃がついた状態を把握することができました。

 いちど和包丁で刃がついた状態がわかれば、両刃の洋包丁でも同じような状態を目指せばいいだけです。片刃より刃をつけることがむずかしいことは変わりませんが、試行錯誤することはなくなりました。両面の刃のつき方を探りながら、バランスのとりかたがわかったからです。自分でうまく研げるようになると、さらに愛着がわくようです。人の工夫が通じるところが道具のいいところだと思います。