焼き魚を作るときは、しょうゆや味噌などに漬け込んで味を入れます。漬け込むことで、食材の中まで味が染み込み、しっかりとした味付けができるからです。また、そのまま焼くよりも、やわらかく、身がパサパサにならないのもいいところです。

 食材の中に調味液が染み込むのは、浸透圧によるものです。浸透圧は料理をしていると、意外とよく耳にする言葉です。

 しかし、なんとなくイメージはできても、じゃあ、説明してみて、といわれると不安です。そこで、私自身の学習もかねて、浸透圧のことを書きたいと思います。

 

 浸透圧とは、成分濃度が異なるものが、隣り合わせに置かれたときに、同じ濃度になろうとする働きのことをいいます。私のイメージでは、大気が高気圧から低気圧にむかって吹く、風の動きと同じだと思っています。

 例えとして、魚の切り身を西京味噌に漬けてみます。切り身の周囲は、切り身自体がもっている塩分濃度より、濃い西京味噌に覆われています。そうすると、切り身の中の塩分濃度と、西京味噌の塩分濃度が同じになろうとします。

 西京味噌よりも塩分濃度が低い魚の切り身は、水分を出して西京味噌の塩分濃度を薄めようとするのです。

 

 魚の切り身の中には水分以外にも、タンパク質などの成分があります。しかし、浸透圧によって出ていくのは水分だけで、ほかの成分は切り身のほうに残ります。これは物質の細胞膜が、半透膜という壁になっているからです。

 半透膜は、小さな水分子は通ることができますが、タンパク質などの大きなものは通ることができません。半透膜のおかげで水分だけが移動する、浸透という働きが起こるのです。浸透は、異なる2つのもの、ここでは魚の切り身と西京味噌の塩分濃度が同じになるまで続きます。

 

 浸透圧を利用して、魚の切り身に味を入れようとするときには、西京味噌に漬ける前の準備が必要です。準備とは、魚を切りだしたあと、切り身にかるく塩を振って、置いておくことです。

 魚の表面に塩がつくと、ここでも浸透圧が働き、魚がふくむ水分が外に出てきます。水分が出ていくと、魚の中にその分、スペースが空きます。その空いたスペースに、このあと漬けることになる西京味噌の成分が入り込むのだと、私はイメージしています。

 西京味噌に漬ける前に塩を振っておいて、余分な水分を魚から追い出し、西京味噌のうまみ成分を染み込みやすくさせるのです。余分な水分を出すことは、魚の臭みを抜くことにもなります。

 

 焼き魚のとき以外にも、浸透圧が使われます。サラダの野菜を切ったあと、水にさらしてパリッとさせるときです。漬物が作られる過程も、浸透圧によるものです。

 浸透圧は、ふだん何気なくしていることなので、現象としては理解できます。頭ではわかっている、というときは、理解度が半分くらいではないかと思います。人に説明できる段階になって、ようやく理解できた、といえるのだと、最近気がついたのでした。