料理の味について考えるとき、五味が基本、とはよくいわれるところです。しかし、五味に含まれる5つの味が明確でないのです。五味なのに5つとは限らないということです。調べていくと、次から次に、それぞれ異なる五味があらわれます。

 100人いれば100通りのサッカー日本代表ベストイレブンができるように、五味にも人や考え方によってちがいがあるようです。

 

 五味は、古代の大陸国家から伝わった五行思想のなかにでてきます。五行思想とは、万物すべてが『木火土金水』の5つの要素から成り立っているという考え方です。

 五味のほかにも一般的に知られているものに、五色、五感、五臓などが挙げられると思います。それぞれが季節と対応していて、その季節に起こる身体の変化を知るための指針のようなものだと思います。現在でも、東洋医学で用いられています。料理とも関連していて、栄養学や薬膳といった分野につながります。

 五行思想にでてくる五味は、酸、苦、甘、辛、塩、の5つです。この5つはほかの五色、五感などと連動していますから、変えることはできません。

 しかし、東洋医学の五行から離れ、純粋に料理だけの考え方として取り入れられると、自由に変化してしまいます。私が確認したものは3パターンです。

 

 1, 酸、苦、甘、うまみ

 2, 酸、苦、甘、

 3, 酸、苦、甘、

 

 酸、苦、甘、はいずれのパターンにも含まれており、問題はないと思います。ちがいは塩と辛のとらえ方です。

 1では辛がなく、うまみが入っています。これは味覚をもとにした結果、近年、変わったことによります。辛味、渋味は痛覚が反応するもので、舌の味覚センサーである味蕾は反応しないのです。そのため、味覚ではないとされ、代わりに料理の味として存在感のある、うまみがはいったそうです。

 

 2,3は基本の料理本のようなもので見かけるものです。2は塩味がなく、渋味と辛味が入っています。

 これは、塩味はすべての料理のベースとして、使用量のちがいはあるものの、かならず使用されるものである、という考え方です。どんな料理でも、仕上げに塩コショウで味をととのえることは大切ですから、この考えには同意できます。

 渋味は、ワインに含まれるタンニンがわかりやすいと思います。ワインは料理によく使われますから、渋味が入るのも納得できます。柑橘類の皮も渋味に入れてもいいのではないかと、個人的には思っています。

 

 3は現場の調理師の考え方にいちばん近いのではないでしょうか。2と3には辛味が入っています。料理の味付けを考えるときに、辛味要素はアクセントとして大きな役割があると思います。

 辛味を生む食材は数多くあり、和洋中すべてのジャンルで使用されます。トウガラシやコショウはストレートな辛さをもち、料理にインパクトをつけることができます。ネギ類は生食では辛いですが、加熱するとうまみに変わります。ショウガやワサビは辛さのなかに香りやさわやかさがあり、料理の印象に影響を与えます。

 辛味は、現在の料理のなかでは欠かすことのできないものといえ、味覚として入れてもいいのではないかと、私は思います。

 このほかにも、四川料理の五味、仏教やインドの伝統医学の五味もあり、多種多様です。五味の考え方は、料理とほかの分野をつなぐツールとして、興味深いと思いました。