てんぷらの出来上がりを知る方法のつづきです。

 箸で確かめるのと、泡で確かめるのは、私自身、理解できるので、自分の言葉で伝えることができます。

 実は、もうひとつ出来上がりを判断する方法があるのですが、それについては、まだしっかりと理解していないのです。

 もうひとつの方法というのは音です。絶対音感がある人に聞いてもらって、油に入れたときの音は何、出来上がりの音は何、と表してもらえるとおもしろそうですが、あいにく、そのような調理師は知り合いにいません。ですから、なんとなくしか伝えられないのです。

 

 音というのは、揚げているときに、てんぷらから発せられるパチパチという音のことです。食材を油の中に入れると、はじめは衣の中の水分と、高温の油が反応して、いきおいよく音が出ます。

 音と同時に粒の細かい泡がたくさん出てきます。衣に火が通るにつれて泡のいきおいがなくなると、泡のなかからてんぷらの姿が見えてきます。そのころには、音がカラカラとか、パチパチとか、単発的な感じがしています。この音がしてくると、中の食材まで火が通ったといえ、油から上げるころだといえます。

 

 しかし、実際は、音で出来上がりを判断することは、むずかしいと思っています。油の中には数種類の食材が、いっしょに入っていることが多いので、それぞれの音を聞き分けるのが困難なのです。

 宴会場などで、客数が多くなると、つぎつぎに食材を油の中に入いかなければならないので、時間差が出てきます。油の中からは、さまざまな状態の音が聞こえてきて、結局、みんな同じに聞こえてしまうのです。

 一種類だけで、しかも同時に油の中に入れられたものであれば、音でわかりますが、そのような状況は現実的ではないのです。

 

 これらの音をすべて聞き分けるのは、かなり慣れた人でないと無理な気がします。てんぷらを揚げるのが上手い人に、揚がるときの見極め方を聞くと、音、という答えがかえってきます。てんぷらの火の通りぐあいを知るには、音がいちばんいいのだと思います。

 音がいい方法なのはわかりますが、実際にはむずかしいので、泡の状態を見つつ、箸で確かめることになってしまいます。どれかひとつの方法がいい、というのではなく、すべて合わせて判断するのが、安全で確実なのかもしれません。