日本料理において、お造りというのは重要で、店の品格を表すといってもいいくらいです。刺身の命は切り口、断面であり、それを見れば、料理人の腕はわかってしまうからです。

 肉や野菜にくらべ、魚の身はやわらかく、繊細なので切りづらいといえます。しかも種類によって身の質はちがいますし、鮮度によっても変わります。

 皮つきで切るときは、皮と身という材質の異なるものを同時に切ることになり、さらにむずかしくなります。

 

 肉は牛、豚、鶏と種類がちがっても、やわらかさにそれほど差はないと思います。そもそも加熱して食べるので、切り口や、素材そのものの色合いなど関係ないともいえます。

 食材の切り口について、気にかけているのは日本料理だけだと思っていたら、欧米にも切り口と断面が、大切な価値を生む料理がありました。それはサンドイッチです。サンドイッチは切るのがむずかしく、注意するところがたくさんあるのです。

 

 商品として提供されるサンドイッチは、スライスした食パンを4枚使うことが多いと思います。

 例として、はさむ食材をハム、レタス、卵とします。2枚の食パンの片面にバターを塗り、ハムとレタスをのせて、はさみます。残り2枚の食パンで卵をはさんだものを作り、それぞれを重ねます。サンドイッチはパンが4枚重ねられた状態で切るのです。

 切るときの注意点はパンを押さえるときに、強く押しつぶさないことです。強くおしつけると安定し、切れやすいのですが、パンがつぶれてしまい、切り口として目にはいる断面が美しくありません。

 パンの厚さと、中にはさんだ具の幅が均等にそろっていると美しくみえるからです。ヨーロッパの国でよくみる国旗のように、パン、具、パンの3層がくっきりと整っているのが理想です。

 

 また、パンを押さえる手は指ではなく、手のひら全体で押さえます。ほかの食材を切るときは、指を立てて、そこに包丁を当てながら切っていきます。

 サンドイッチで指を添えると、パンに指の形がついてしまい、そこだけつぶれてしまいます。

 包丁で押すように切るのも、パンをつぶしてしまうので厳禁です。パンだけが押しつぶされてせんべいのようになり、断面の3層がいびつになってしまうのです。

 サンドイッチを切るときは、最初に包丁をパンに対して、60度くらいの角度で入れます。切っていくためのきっかけづくりのようなものです。

 この切り口をもとに、今度は包丁をねかせ、刃とパンが平行のまま、前後に大きく包丁を動かして切っていきます。

 このとき、よけいな力をくわえると、パンがつぶれる原因になります。押して切るのではなく、包丁の刃を滑らせるように動かす意識が重要です。

 

 包丁を大きく動かすと、中にはさんだ具材によっては、ずれてしまい、切りづらいものもあります。レタスやスライスチーズなどは、密着しづらいところがあるので、ずれる可能性があります。

 ローストビーフなど、うすいものを何枚も重ねた場合もずれやすくなるので、注意しないといけません。

 包丁の刃が短いと、包丁を動かす回数が多くなるので、その分、ずれる危険性も増えることになります。30センチ以上の、刃に波型がついたスライサーを使うと、うまく切ることが容易になります。

 刃の長い包丁といえば、和食の刺身包丁もサンドイッチを切るのに優位に働きます。片刃なので切れ味がよく、力を入れなくてもスムーズに切ることができます。

 日本の包丁のクオリティの高さを証明するのには、魚を切るより、サンドイッチを切ったほうがわかりやすいのかもしれません。