ここ数年、スッポンを扱っています。お椀や焚合で提供したり、身を固めて揚げ物にすることもあります。 

 これまで私はスッポンのことはまったくわかりませんでした。なので、スッポンのおいしさについても最近知ったのです。

 

 スッポンはさばいて、うすい膜を取り除いて、水と酒で煮ていきます。このときショウガや焼きネギ、昆布をいっしょに入れて、弱火で火を入れていきます。

 沸騰したら昆布を取り出し、3分の1の量になるくらいまで煮詰めるように加熱していきます。

 ショウガや焼きネギの風味がスッポンのダシに浸透していくと、臭みが抜けて、上品なダシができあがります。

 

 スッポンの身は取り出して、身と骨を分けていきます。この時点で、スッポンのダシはほぼ完成といえるほど、滋味深いうまみがでています。

 商品として提供するときは、ほんのすこし塩を加え、味を整えます。スッポンのダシはとても上品な口当たりでありながら、うまみが強く、しっかりした味がする、すばらしい素材といえます。

 ダシの色も濁ることなく、透明で澄んでいます。多少、脂が浮いたりしますが、魚や肉の脂のようなギラギラした感じはありません。スッポンの姿からは想像できないような、味と見た目のダシが生まれるのです。

 スッポンはもっと、たくさんの出番があってもいいと思います。フランス料理とかでも使えそうな食材なのに、もったいないような気がします。

 

 フランス料理の古典料理のなかに、海亀のコンソメスープというのがあります。19世紀ごろの南洋の島々では、海亀がふつうに食べられていたようで、それが、フランスに持ち込まれたと考えられます。

 おもに食用とされていたのはアオウミガメで、いまでは保護される対象になっています。

 私はスッポンのダシの味をみるたびに、この海亀のスープのことが頭に浮かびます。住んでいるところは異なりますが、同じカメですから、味も似ていると思うのです。

 海亀は海で生活している分、エサの栄養価も高くなりそうなので、スッポンよりさらにおいしいダシがとれるのではないかと思っています。

 

 もう海亀は食べることができないのだと思っていたのですが、日本で食べているところがありました。

 小笠原諸島では、年間に食用として、捕獲できる数が決められていて、海亀の料理が名物のようになっています。東京のフレンチレストランでは、小笠原諸島から、この海亀を仕入れ、コンソメスープを提供しているそうなのです。

 意外と身近(?)に、海亀を食べる文化があったことは、はじめて知りました。