5


同僚達が、恨めしそうに窓から空を見上げている。


大粒の雨。


せっかくの満開の桜が散り散りになってしまう。


週末の花見バーベキューの幹事がため息をつきながら呟く。


「ま、当日に晴れてくれればいいんだけどさー」


そうだねぇ、と笑いながら返事を返す。


電話が鳴る。


メール返信をする。


企画書の作成に集中する。


そうして日々は過ぎていく。


あなたがいなくても。


日々は過ぎていく。


同僚達とランチに行く。


ちゃんとお腹が空いている。


午後も仕事に集中する。


眠気が差してコーヒーを飲む。


15分だけ残業して、会社を出る。



雨は上がったけれど、風はまだ強い。


冷たいような暖かいような南風。


雨に叩かれ地面にへばり付く無数の桜の花びら。


黒い地面に描かれた桜色の銀河。


あの日見た流れていく花びらの帯。


初めてのあの日、花びらの帯の行方を知る事は出来なかったけれど。


初めから、結末は決まっていたのだ。


だから、待たなかった。


何を?


あなたが私の全てを受け入れてくれる事を。


全ての時間と、全ての事柄を。


二人でいられる時間に、ただ向かい合う事。


それだけしか寄る辺がなかったから。


何も期待せず、ただ二人で時間を漂った。


それだけで良かった。



桜の帯を踏み散らしながら駅までの道を歩いていると、久しぶりの影が私を呼び止めた。



続く


4


メールの返事がない。


本当に病気でもしているのか。


いや。


明らかに連絡を絶っている。


返事が来るまで一日かかった事もあるけど、全く返事が返ってこない事は今までなかった。


何故?


煙草に火を付ける。


最後に会ったあの日、彼女の様子がおかしかった。


それと関係あるのか。


様子がおかしくなった理由も分からない。


前のように、誰かが彼女にアプローチしているのか。


……そんな素振りもなかった。



煙を吐きながら、窓の外に目を移す。


青空に満開の桜が揺れている。


ここ2、3日で一気に満開になった。


ああ、また桜の下を彼女と手を繋いで歩きたいな。




強引にでもいいから、彼女と会わなければ。



続く

3


「元気にしてますか。そろそろ会いましょう」


あなたからのメールを何度も開いては閉じる。


もう一週間返事をしていない。


迷っていたのだ。


私は本当に、あなたが必要なのか。



最初は好きから始まったのだ。


舞い散る桜の花びらの中で、初めて唇を重ねた夜。


寒かったのに、唇が熱くなった。


あなたのコートの中は暖かかった。


確かにあった恋心が、あなたに抱かれる度に消耗されたのか。


恋心が少なくなる替わりに得たのは、安らぎか。


いつものやり方で、いつものように愛し合う。


その後に訪れる深い安心感、深い眠り。


初めのようにときめく事はなくなったけれど、なくてはならない大切なもの。



……だった。


誕生日を聞かれるまでは。


体に巻きつけていた毛布を無理矢理剥がされたような、心細い寒さ。


温めてくれるはずのあなたから与えられた。


その寒さは私の芯に居座り体を冷やし続け、一つの想いを植えつけた。


私は本当に、あなたが必要なのか。


ただ、慣れた毛布のような心地よさに包まれていたいだけではないのか。


二度と会えなくなると、私は泣いてしまうのではないだろうか。


愛情ではない、ただ情に流されているだけなのだろうか。



まだ迷っている。


私は本当に、あなたが必要なのか。



続く