会社で泥棒扱いされた。
これが初めてじゃないけど、今日は名指し。
証拠も根拠もない。

今回に限っては、「あなたいつもお金ないって言ってるから、お金無くなったら真っ先に疑われますよ。しばらくお金を扱う仕事は外れてもらいます」って。

1年間働いて、少なくとも4回は、私たちの部が疑われた。
パートが多くて金が欲しいだろって理由で。
私達が疑われないようにやり方を変える等の努力をせずに。

だいたい1年に4回も窃盗疑惑が起こる会社ってどうなのよ。
管理が出来てないって事だろ。
それを改善もせず、パートに疑いをかけて解決したつもりになってるなんて、怠慢だろ。

今まで我慢してきたが、もう腹に据えかねる。
どうしてやろう。


7


「どうして?」


私の顔を見たまましばらく黙っていたあなたが、やっと搾り出した掠れた声。


決心が揺らがないように、あなたから視線をはずして正面を向いたまま話始める。


「あなたと会わなくても、仕事は進むし、ご飯も食べたし」


「……」


「何も困らなかったの、あなたがいなくても。むしろ、自由になれたの」


「自由?」


「そう。誰の目も気にせずに、自由に振舞えたの。


誰かに見られてしまうんじゃないかって、ビクビクしながら過ごさなくて良かったのよ」


「……」


「……いつのまにか、手を繋いで歩くことすら諦めてしまっていたの。


この先の未来を夢見る事も。


普通の恋人なら出来る当たり前の事が当たり前じゃなくて、タブーだった。


タブーにしたのは、あなたと私、二人のせい。


それを知っていて、それでもあなたと一緒にいたいと思った、私のせい」


「……」


「でも、もうそんな思いをするのは嫌になってしまったの。


他の誰かと手を繋いで、正々堂々と歩きたくなったの」


黙って私の話を聞いているあなたは、どんな表情を刻んでいるのだろう。


「あなたと会えないのは辛いだろうと思ってた。でも、意外と平気だった。


私にとって、あなたはその位の存在だったの」


「!」


「……あなたにとっても、私は大した存在ではなかったのよ」


「! そんな事……!」


「あるわ!」




続く
6

自動販売機で缶コーヒーを買って、一つを彼女に手渡す。

缶の熱さで、手がジンジンする。

彼女を待っていて体が冷え切ってしまったようだ。

彼女は手渡した缶を見つめたまま、下を向いている。

その様子は普段と変わりないけれど、明らかに俺を拒んでいた。

「どうして返事くれなかったの?」

「……」

「……」

彼女は、何かを言いたそうにしながら、言葉を選んでいるようだった。

こうなると時間がかかる事も、もう知っている。

彼女から言葉が出てくるまで、黙って待つつもりで、缶コーヒーを開ける。

湿った冷たい空気に、コーヒーの香りが広がる。

雨上がりの公園。

今日の雨で、桜の花びらが叩き落されて、黒い地面がその残骸で埋め尽くされている。

ああ、今年は花見に行きそびれてしまったな。

「試していたの」

突然出てきた言葉に驚いて、君の顔を見る。

「何を?」

俺から顔を背けたまま、君が答える。

「あなたに会えなくても、生きていけるかどうか」



「どうしてそんな事試すの?」

「……」

聞いてはいけない、と思いながら、聞かずにはいられなかった。

「……どうして?」

少しの沈黙の後、君が顔を上げて俺の目を見ながら、言った。

「あなたとは、もう、会わない」


続く