執筆中の自作小説をブログで公開します。
タイトルは『時空ウォーカー』です。
時空ウォーカー - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16816927860953206067
出来るだけ多くの人に読んでもらいたいです。
感想、質問など何でも受け付けます。
よろしくお願いします。
Ⅲ>>>
修治はエミーを邪魔者扱いしていたが、当の本人は気にせず、強かな態度で1998年の彼の家に居座っていた。
「何時になったら帰るんだ?迷惑だ!」
「まあまあ…私といると、何か都合が悪いの?」
「初対面の女を部屋に泊めたんだぞ、叔父に知れたら地獄だ、さっさと用件を言えよ!」
「落ち着いてよ、今はまだ言えない…この時代のこと、色々と知りたいから近所を案内してほしいんだけど…」
修治はエミーの図々しさに対して、怒りを通り越して呆れるばかりだった。
彼には、未来から来た厄介者を追い出す術はなく、頭を抱えるわけだが…
「僕だって忙しいんだ、バイトに行かないと…」
「へえ、どんなアルバイトなの?」
「…一応、役者関連の…都内でドラマの撮影があってね…」
「面白そう~!見学させてもらうわ!」
「いい加減にしろ!お前はじっとしといてくれ…」
修治はエミーに反発するが、それで解決するわけがなかった。
「…私に留守番させて大丈夫~?部屋の中を滅茶苦茶にするかも~」
「……くそ」
修治はエミーに脅されて、反論で出来ずにいた。彼は仕方なく、エミーと外出することになるのだが…
「何やってんの?」
修治は、エミーの前で出掛ける準備をしているのだが…
「…君と歩いていると誤解を招く、そのための対策だよ」
修治は野球帽を被り、サングラスを掛け、マスクも装着していた。
彼の表情は分からなくなり、不審者に見えるのは明らかであった。
「何で変装なんてするのよ?」
「友達や知り合いと顔を合わせたくない…行くぞ」
エミーは変装した修治に従って、黙って同行した。
交通機関が揃う駅に向かうには、商店街や住宅街を抜けなければいけないのだが…
地元のため、修治の顔馴染みは数え切れない。彼の胸の鼓動は高まる一方で、
真夏日にマスクで口元を覆っているため、とても正常ではいられないはずである。
「凄い汗よ、大丈夫?」
エミーは心配するが、修治は聞く耳を持たず、ひたすら目的地を目指そうとするのだが…
「…おっ仲山じゃないか!」
修治は背後から誰かに呼びかけられて、心臓が止まりそうになっていた。
「…その声は」
呼びかけたのは、修治の男友達であった。例え変装しても、
付き合いが長ければ後ろ姿で分かるものである。
「…お前、どうしたんだ?警察に職務質問されるぞ」
「いや…これは事情があって…その…」
修治は男友達の前で顔を赤くして、変装道具を外した。
「隣は…お前の連れか?」
修治は落ち着く暇がなく、男友達の取り調べが始まった。
「ああ、大学の…友達だ」
「なんだ恋人じゃないのか…お前って一途だもんな~」
「え?」
その時、エミーは修治の男友達の発言に引っ掛かったようだった。
「余計なことは喋るなよ…」
「別に良いじゃないか…そうか、やっぱり2人の仲って…」
「だから違うって!ちょっと急いでいるんだ、またな」
修治たちは歩くペースを上げて、逃げるように男友達の前から去って行った。
どうにか窮地を切り抜けたわけだが…
「はあ~変な噂が蔓延しなければいいけど…」
「変装は無駄だったわね」
「…頼む、この町にいる間は離れて歩いてくれないか?」
「しょうがないわね…」
エミーは、修治の言うことを聞いてくれた。何はともあれ、奇妙な関係を持った2人は、私鉄で都内を目指した。
場所は都内の公園。緑が多く、広大な敷地面積を誇っており、
猛暑にもかかわらず、その日はやたら人の数が多かった。
辺りを見渡すと、撮影カメラや照明器具、音響装置など普段見ることがない機材が公園内に運ばれていき、
専門職の人間が入念に打ち合わせをしている。
彼らは公園をロケーションに選び、ドラマ撮影の準備をしていた。ロケ現場は、
時間が経つにつれて野次馬が増えていった。
「それでは皆さん、撮影を始めるので指示通りにお願いします」
現場スタッフの前には、大人数の人が集まっているが、野次馬ではない。
彼らはアルバイトで雇われたエキストラだった。そこに修治の姿があり…
「何が役者の仕事よ、カッコつけちゃって…」
エミーは騙された気分になり、独り顔を顰めていた。
修治たちエキストラはリハーサルを行い、台詞がない通行人やカップルの役でも真剣そのものであった。
それからしばらくして、主役や主要キャストたちが続々と、撮影現場に姿を見せた。そして…
「きゃあああー」
旬の男女俳優が現れたら、自然と黄色い声援が上がる。野次馬の中には熱狂的なファンが紛れていた。
また、芸能事務所の幹部やマスコミも撮影現場を見学しており、
独特な空気が漂っていた。ただ、都内では珍しい光景ではなく、芸能人を見かけることは日常茶飯事に近い。
「カチン!」
カメラの前でカチンコの音が鳴れば、本番が始まる。その日は天気に恵まれて、
監督はイメージ通りの画が撮れたのか、機嫌は良い方だった。
それからNGは少なく、撮影は順調に進んでいった。
「はい、カット!」
数時間後、撮影は無事に終了した。ひと段落すると、出演者はサインを書いたり、
限られた時間でファンサービスを行い、ロケバスに乗り込み次の仕事現場へと向かった。その一方で…
「…お疲れ様です、どうぞ」
役目を果たしたエキストラは、スタッフから出演料を渡されて、その場で解散した。
修治はバイトが終わると、エミーのもとに向かった。
「…終わったの」
「ああ、とりあえずな…また呼ばれるかもしれない」
「割の良いバイトなの?」
「いいや、ほんの小遣い稼ぎさ、大学の友達の父親が映像会社に勤めていてね…その紹介さ」
「芝居の仕事に興味が?」
「以前はあった、でも現実はそう甘くない、単なる趣味さ」
その時、修治は今までにない表情を浮かべた。エミーは何かを察して、敢えて事情を聞かなかった。
2人は公園を出た後、駅前の飲食街に立ち寄り、少し遅い昼食を取った。
エミーはまたもや、20世紀の食文化に驚愕することになる。庶民的な定食屋は初体験であった。
「未来でどういう食生活してんだ?」
「どうって…味気ないものよ、あらゆる食物を合成したものばかりだから…あまり食べる必要ないしね」
「まだ夢を見ている気分だ、名前はエミーで…フルネームは?」
「名字はないの、親とかいないし…」
「それはどういうことだ?」
「話せば長くなるけど…」
エミーは修治に質問を投げかけられると、難しい表情を浮かべた。
彼女は未来での出生状況を説明していくわけだが…
22世紀になると、飛躍的に進歩した科学力で、新たな人間を誕生させることに成功した。
受精・妊娠・出産しなくても、遺伝子操作で人間を生み出すことが可能となり、
当初、〝神の真似事〟、〝自然の摂理に反する愚行〟だと論争を巻き起こしたが、
時の流れで価値観が変わっていき、認可までに至った。
高度科学力で生を受けた赤子は、約15年間ほど、育成培養カプセルの中で、
栄養と一般知識を与えられて成長していく。
カプセルを出ると人工惑星に移されて、5年間、現実世界と隔離された施設で集団生活を行う。
その後は自立した生活を送り、親は無くとも子は育つ社会が実現することに。
「…君には一切、肉親がいないってことか?」
「ええ、戸籍どころか国籍もないわ、地球で生まれ育ってないし…」
「とても君の話について行けないが…宇宙人と思えばいいんだな」
「半分当たりよ…外見は同じだけど、人体の構造や機能が根本的に違う…私の年齢は63よ」
「え?」
その時、修治は注文したカツ丼を食べながら会話していたが、エミーの衝撃的発言で、つい箸が止まった。
「現在で60代と言えば、年寄り扱いされると思うけど、私の時代では違うわ、まだまだ現役よ」
「さすがにそれは嘘だろ?同じくらいの歳だと思ってた、騙されないぞ」
修治は冗談と思って笑っていたが、エミーの硬い表情が崩れることはなかった。
「実年齢よ、美容整形もしてないし…この時代だとおばあさんよね?」
「うちの親より年上じゃないか、信じられん」
エミーの話によると、遺伝子技術の発達で、人間の細胞組織は老化・劣化しにくくなり、
100年以上、細胞は活性化している状態を保ち、年齢を重ねても絶頂期の肉体を維持することが可能に。
人間の生命力は大幅に強化され、21世紀までに発見された病気(病原菌感染)は、ほぼ投薬で完治する。
「信じないのは勝手だけど…私の時代では、男性で200年以上、女性で250年近くまで生きるわ」
「完全にSFの世界だ、さすがにドン引きだ」
修治たちの会話は合わず、自然と食事に集中していた。
「このスープ美味しいわね、何だっけ?」
「味噌汁だろ」
「この生モノは?」
「刺身だよ…ちゃんと醤油につけて食べろよ」
エミーは、自分が何を食べているか把握しておらず、いちいち修治に訊いていた。
まるで初めて日本食を口にする外国人である。エミーは満足した様子で、支払いを修治に任せた。
「またご馳走になっちゃったわね~」
「気にするな、それでこれからどうする?」
「あなたは?何か予定が?」
「ちょっと寄り道していく…ついてくるのか?」
修治は不快そうな表情を浮かべてエミーの返答を待つが…
「…いいえ、色々と世話になったわね、ここで別れましょう」
意外な答えが返ってきて、修治は驚愕していた。
「どういうことだ?もう僕に付き纏わないってことか?」
「ええ、私のことは気にしないで、じゃあね」
「ちょっと待てよ、結局、用件は何だ?」
「大したことじゃないわ、もう行って…」
修治とエミーの別れは、突然やって来た。
「ったく、何だよ、あの女…」
修治は邪魔者がいなくなって安堵していたが、解せないことがいくつもあった。
突如現れたエミーという女性は何者なのか、未来人なんて信じられるわけがない、
新手の詐欺か、夢なら醒めてほしいが、彼女との出会いは明らかに現実だった。
謎が膨らむばかりだったが、修治はエミーのことを忘れて、自分の時間を満喫するのであった。
これで奇妙な出来事に幕が閉じられようとしたが…
時が流れて夕刻が訪れた。修治はバイト代で遊び倒して、満足げな顔で帰ってきた。
彼の手にはパチンコで得た景品があり…
「あら、いらっしゃい~」
機嫌が良い修治は、帰宅途中に喫茶店<mii>に寄った。
隼人の美人妻(美衣)が、いつものように接するのだが…
「修君、ちょっと伝えたいことがあるんだけど…」
「はい、何でしょう?」
美衣は修治に注文を聞いた後、表情を一変させた。何やら問題があった様子で、
修治は快く彼女の質問を受けた。
「あなたの隣の号室って、長いこと空いてたでしょう、今日、入居者が決まってね…」
修治は美衣の話を聞くと妙な胸騒ぎがして、注文したアイスコーヒーを待たずに、
一目散に新たな隣人の入居部屋を目指した。
「ドンドンドン…ピンポ…」
修治は、激しい剣幕で隣人の部屋に訪れた。すると、反応があり…
「…何よ、うるさいわね~」
隣人は、急に訪ねて来た修治に応対するのだが…
「おいおい…どういうことだ?」
修治の眼前には、何故かエミーが立っていた。2人の再会はあまりにも早かった。
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