この辺境ブログに辿り着くような方なら
ほぼご存知かと思われますが ;
ご存知ない方のために 一応記させていただきます。
ピーター・カニングハムは70年代末期から
90年代半ばまで活躍した マーシャルアーツ、
アメリカンスタイルの 最後のキックボクサー。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140307/11/amon-duul/de/0f/j/o0400050312867599758.jpg?caw=800)
ビル・ワラスの “ スーパーフット ”
と呼ばれた多彩で豪胆な蹴り技と
シュガーレイ・レナードのような軽快なフットワーク、
その両方を持ち合わせていた事から
“ シュガーフット ” と評され
キックボクサーやナックムエ相手に フットワークで撹乱し
パンチコンビネーションや回転系の派手な蹴り技で
ポイントを取っていく華のあるスタイルを見せてくれました。
個人的にはマーシャルアーツスタイルの選手の中では
パウンド・フォー・パウンド に挙げたい選手です。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140307/11/amon-duul/e7/3a/j/o0400053512867598915.jpg?caw=800)
カニングハムは元々 ブルース・リーに影響を受けて
格闘技を始め、カナダで千唐流空手をベースに
プロ空手選手として試合を重ねていましたが、
81年に地元でベニー・ユキーデのセミナーを受け、
ベニーSENSEI ^ から 「 偉大な王者になる 」
と直接言われた事をきっかけに、
ジェットセンターにて ユキーデに師事するようになり
マーシャルアーツやムエタイの激戦を通して
メキメキと頭角を現していった選手です。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20140307/11/amon-duul/59/5b/j/o0400052812867598914.jpg?caw=800)
ベニー・ユキーデのように来日する事はありませんでしたが、
86年に大久保 ( ? ) という選手と、88年に羽田真宏選手と
89年に飛鳥信也選手と3人の日本人選手との試合経験があり、全勝。
ムエタイ強豪選手との試合も多数あり、
プラサート ( タイで 息子に1ヶ月半毎日教えてくれた
チャンチャイ先生を2回破り、ルンピニーのチャンピオンにもなった )
との試合や、伝説の試合と語り草になった
サガット・ペッティンディーとの試合は特に有名ですね。
サガットは ストⅡサガット のモデルにもなった
ムエタイの伝説的王者であるだけでなく、
ボクシングにも転向した経験があり、なななんと
ボクシング転向からわずか3戦目で
WBC王者のウィルフレド・ゴメスに世界挑戦した選手。
そのサガットに
「 パンチは勝てなそうだったからローでいった 」
と言わしめるほど
カニングハムのパンチにはパワーとスピードがありました。
( カニングハムにもプロボクシングキャリアあり )
そのパンチと、サガットの執拗なローキックとが
激しく交差した試合は まさに世紀の一戦となりましたが
結果は ドロー
カニングハムの全戦績は
51戦50勝1ドローという説と
51戦49勝1敗1ドローという説がありますが
いずれにせよ驚異的な戦績を残しています。
今回は、その中からキャリア末期に行なわれた
ディダ・ディアファットとの一戦を紹介しつつ
2回に渡って、キックボクシングにおける
フットワークとアウトボクシングについて
記事を書いてみたいと思います。
まず、前提として、
キックボクシングジムでは
フットワークについてボクシングのように
細かい種類は 教わりません。
スタンスを教わった後に 前後と左右の
グライディングを教わるくらいです。
これは自分が教えていた頃もそうだったし、ここ数年間で
様々なジムにて見させて頂いた基礎練習内でも同様でした。
( もし細かく教えているジム様ありましたらすいません )
ムエタイでも同じで
うちの息子がタイで練習していた際も、
フットワークで グライディング以外の
例えばスプリングやピボッティングの練習を
していると、チャンチャイ先生をはじめ
コーチ陣からとても怒られたそうです。
「 ピョンピョンするな! ノシノシ行け!! 」 と。
蹴りは 基本的に跳ねずに摺り足で斜めに踏み込むので
足を外向きにノシノシ歩くように接近するフットワークは
キック / ムエタイの理に適っている動きです。
またキックに関してバックステップしながら
引き打ちする事は ほとんどありませんし、
回るような足使いで逃げてもローで足止めされるので、
足は前後左右グライディングの範囲内で使い、
相手の攻撃はカットやディフェンスで受け、
そこから返しを打つ、というのが基本の考え方です。
なので
日本のジムで教えてらっしゃるタイ人の先生方も
基本的にはこの教え方を取っていますね。
つまり キック、ムエタイには
基本的にはグライディング以外の
フットワークはいらないし、
アウトボクシングというスタイルもない、
というのが定説なのです。
さて、これから紹介する ディダ・ディアファットも
まさにノシノシと前進して強打を叩き付けていく
フランスムエタイ伝説の猛者。
デニー・ビルとは また違った激しいスタイルで、
その甘いマスクとは裏腹に 試合は かなりの激辛です。
( 現役フランス選手でいうとファビオ・ピンカ辺りに近い存在か )
2度に渡るラモン・デッカー戦において、
1戦目は肘で切り裂きTKO葬
2戦目は真っ向から勝負し判定勝ち
両試合ともデッカーを破るという快挙を成し遂げています。
そんなディダ・ディアファットが
カニングハムのISKAタイトルに挑戦した
タイトルマッチ 2分12回戦が こちらです ↓
この試合、冗長で退屈な試合だと言う知人もいますが ^ ;
個人的には スタイルの違うトップキックボクサー同士が
どちらもペースを譲らない、ISKAのタイトルマッチ史上
稀に見る大接戦であり 名勝負だと思っています。
ディダ・ディアファットは これまでの強豪との試合同様、
ノシノシ相手に近付き強打を放っていきたい所ですが、
なかなかカニングハムのフットワークに追い付けません。
カニングハムは完全なアウトボクシングです。
そのフットワークは キック / ムエタイのジムでは
あまり教わる事のないスプリングやサークリング、
ピボッティングなどを含み、ある時はボクシング的、
ある時はカンフー、マーシャルアーツ的でもあります。
自由自在に動く足を用いて
縦横無尽にリングを駆け巡ります。
スタンスも キック / ムエタイのジムでは
まず教わらない デトロイトスタイル。
前手を下げてフリッカー気味のリードを出し易くし、
そのきっかけから放たれるコンビネーションで
放たれるフック&アッパーは実に強力です。
もちろん、デッカーを二度もストップした
ディダ・ディアファットですから、一方的に
カニングハムにペースを与えたりはしません。
どれだけ避けられようが前進して攻め続け、
デトロイトスタイルをとっているため
空いているカニングハムの左ガードに
強烈な右フックを捻じ込んでいったり、
一瞬の隙を付いては ショートアッパーで
今のダウンでしょ!? というスリップを誘ったり
一進一退の均衡は破らせません。
しかしながら王者と挑戦者という立場上、
王者のポイントアウトするアウトボクシングの方が
リングジェネラルシップを奪っている事は明白であり、
12回終了判定により、勝者はピーター・カニングハムでした。
※ ちなみにこの両者、2年後に再戦していますが、
その勝負もカニングハムがポイントアウト勝ちし、
デッカーを2度倒したディダ・ディアファットを
カニングハムは2度退けています。
( その試合でカニングハムは現役を引退しています )
この カニングハムのスタイル、というよりも
マーシャルアーツ、アメリカンキックのスタイル自体、
現在のトップキックボクサーの中には見掛けませんね。
( 探せばいるのかもしれませんが・・・・・・ )
加えて、キックボクシングでは
ほとんど見る事の出来ないフットワークを用いた
アウトボクシングスタイル。
カニングハムの このスタイルを成り立たせているのは
アウトボックスを完璧にこなせるボクシングスキルに加え、
バックステップをしながらも精度の高いサイドキックが打てたり、
左にサークリングしながら相手の奥足にアウトローが打てたり、
フットワークしながらの蹴り技が打てるという点。
ここら辺の ムエタイに無い多彩な蹴り技は、
カナダでの千唐流空手の修練やジェットセンターでの
ベニー・ユキーデの教えが大きいのでしょうね。
もちろん前進しながら打つ蹴り技の威力と比べれば
威力は下がりますが、その蹴りをジャブや触覚代わりに利用し
タイミングと距離を測って 次は強めにバックスピンキックを放ったり、
ある時はストッピングに用いて、相手を足止めしている内に
安全な距離までバックステップしたりと、TPOに合わせて ^
距離を作るのに上手く利用しています。
また この動き自体が
かなりの身体能力の上に成り立っている事も明白で、
黒人が持つ瞬発力やバネの力は無視出来ませんね。
実際 カニングハムにも黒人ならではの
豊かな大腰筋や 細く凝縮した下腿三頭筋が目立ってますし、
まぁ見るからに並の身体能力ではないでしょうね。
他の人種で同じような動作をするには幾つかの
身体能力的な難しい条件はあると思います。
ただ、カニングハムをはじめ
マーシャルアーツ / アメリカンキックの多くの選手が
作り上げてきたこのスタイルは、その身体能力的条件と
特定の格闘競技を通過してきた選手が真剣に修練すれば
現在のキックボクシング ( 特にヨーロッパルール / K-1ルール )
においても 間違いなく通用するスタイルだと思っています。
次の記事でも、
キックボクシングにおけるフットワーク&アウトボクシング
について更に突っ込んだ個人的な考察を書いてみようと思います。