からの続き


ユリの「幸せになります宣言」から数日。


2週間ぶりの面会交流があった。



カイトの顔を見るとホッとする。


どんないざこざがあっても、カイトと会えている。

それさえあればいいじゃないか、と思った。

 

 

晴れた空に誘われて、僕らは散歩に出た。


家の近所の並木道。
遊歩道沿いの小さな公園。


何てことのないいつもの景色も、そこにカイトの笑顔があるだけで特別になる。



「こら、カイト、はしゃぐなって!」


駆け出して先に行こうとするカイトを、ひょいと持ち上げる。

それもまたゲームか何かと思ったのか、手足をバタつかせて笑うカイト。
まるで釣り上げられた魚みたいだ。


つられて僕も笑う。



なんだろう。ふわっとやわらかい、この気持ちは。



―――この子を守っていきたい。


その想いは、ほとんど祈りに似ている。



ユリがやっていることは本当に滅茶苦茶だし、考えていると具合が悪くなるばかりだけれど、それでもカイトと笑い合う時間があるのなら、僕は何度でも立ち上がって頑張れると思う。


笑っていよう。せめて、カイトと一緒の時は。



ジタバタもがいて僕の腕から逃げ出すと、カイトはまた走り出す。


そして、少し先まで行くとくるっと振り返り、いたずらっぽい表情を浮かべ、今度はこっちに向かって走ってくる。



僕はただ、笑って全部を受け止めよう、と思った。



******************************************



「あのメールのことなんだけど・・・」


面会交流にカイトを連れてきたユリが、薄ら笑いを浮かべながら言う。


「家賃払わないとか家から出てけとか、生活費減らすとか、さ。
あれ、和解書違反だからね!」


「何が? 和解書に書いてある通りだけど」


表情も変えずに僕は答える。


「再婚したら、でしょ。まだ再婚してないし。この先どうなるかもわからないでしょ?」



おかしな実験的体外受精までして無理やり妊娠したのに、この先どうなるかわからない、とかあるんだ。

あんな「幸せになります」宣言までしたのに。

 


呆れるのを通り越して、笑うしかない。

もう僕の心はユリの言葉には何も感じるものがない。


「とにかく、再婚するまではあなたにはお金払う義務があるんですからね! 忘れないでよ!」



******************************************



今は、ただ、カイトといる時間を大事にしよう。


いろんな嫌なことを忘れて、僕は笑顔で腕を広げる。



大きな目をキラキラさせながらカイトは全速力で突進してきて、笑いながら僕の胸の中にどすんと収まった。



「おじさん、大好き」



は?


笑顔が一瞬固まる。



「カイト、おじさんじゃないよ。ダディだよ。何言ってんの?」


「うん? ママがおじさんのことは、『おじさん』って呼べ、って言ったから」


ちょっと困った顔で僕の顔を見上げるカイト。



その時、僕は一体どんな顔をしていたんだろう?


せめてカイトと一緒の時は、ずっと笑顔でいようって思ってたのに・・・。

 

↓よろしければクリックお願いします!


にほんブログ村


人気ブログランキングへ

 

 

 

続く

 

(現在他ブログからの引っ越しをしていて、やたらエントリーが多いと思われると思いますが、今日で落ち着きます。お許しください!)

 

からの続き


というわけで、僕に洗いざらいぶちまけたから、もうOK!と言わんばかりに、その翌日ユリは僕の両親にメールを送りました。(僕へのCC付き)



******************************************


色々と今までご心配をおかけしてきましたが、ご存じの通り和解が成立しました。


そして私事になりますが、私は現在妊娠中で、近々再婚予定です。


カイトはお相手にとてもなついており、お相手のご実家やご親戚とも打ち解け、かわいがられ、とても幸せそうに毎日笑っています。

今度こそ笑顔の絶えない、幸せな家庭が築けると思います。


Dragonさんも新しく交際中の方がいらっしゃるそうで、そちらにも早く新しいお孫さんが誕生されるといいですね。



ユリ


******************************************



誰か、僕がおかしいなら「おかしいよ」って指摘してほしい。



「シングルマザーとして生きていく、もう一生一人かもしれないけど、カイトのためだけに私は生きるの」とユリは僕に言い続け、和解金3000万と住居、それに月40万の生活費をふんだくったんですよ。


それなのに実際は、前々から男がいて、その男とクリニックで僕の金で体外受精(しかも危なっかしい実験的な細胞操作による)で無理やり妊娠。

妊娠がわかったものだから慌てて和解を持ちかけてきて、金の話が決まった瞬間、僕に男のことを言おうかな、と思ったけど、いや、待て、もうちょっと絞り取れるかもしれない、と思いつき、「妊娠した子はあなたの子」と言い出した。

でも、金を取るのが難しいと気づき、「あれは冗談」と言い出し、挙句この「幸せになります宣言」メール。



へえ、そりゃ、少なくとも1年前から不妊治療始めるくらいのご関係なんだから、お相手はカイトとも十分触れ合う機会があって、ご実家にも連れて行って、家族ぐるみのお付き合いできるよね。



でもその間、ずっと生活費払って、住宅費払ってたの、誰?

お前らの不妊治療代払ってたの、誰?


それで俺、何回、何時間、カイトと会えてるの?



その男も一体何なの?


俺の金で不妊治療に行って、クリニックで俺だって偽って精子出して子供作ってくるって、どういう神経?

 

男として恥ずかしくないの?

 

不満に思うの、俺がおかしいの?

 


・・・まあ、本気で怒るだけ、時間の無駄なんだけど。



とにかく、このメールを受けて、僕は機械的に対処することにしました。



******************************************


メール拝見しました。再婚おめでとうございます。


つきましては、和解条項通り、再婚された場合は住居費の支払い責任が当方からなくなる旨をご通知します。

現在お住いの住居から引っ越されるか、そちらで家賃のご負担をされるかをご連絡ください。


また、生活費等に関しても、こちらの負担分が軽減されます。


ご了承ください。


Dragon


******************************************

 

 

↓よろしければクリックお願いします!


にほんブログ村


人気ブログランキングへ

 

 

 

続く

(現在他ブログからの引っ越しをしていて、やたらエントリーが多いと思われると思いますが、多分明日で落ち着きます。お許しください!)

 

からの続き


こうして翌日、ユリはクリニックの書類を持って、僕の家にやってきました。


「まさかあなたがそこまで深刻になると思わなかったからさ~。冗談だったのよ、冗談」

昨日の電話とは打って変わり、ニヤニヤした笑みを浮かべながら、ユリはカバンの中から書類を取り出して僕に見せました。


「これね、この書類。2010年の9月(*1)。使った精子が新鮮(生、ということ)ってところに元々丸してあるでしょ。

 

つまり、この時点からあなたのじゃないってこと。

 

でも、あなたには、「あなたの冷凍してあった精子使った」って言っちゃったから、新鮮って囲んだ丸だけ修正液で消して、凍結(冷凍してあった精子、ということ)って方に自分で丸したんだけど、あまりに不自然で、これはさすがに自分でも無理だな、って笑っちゃった(笑)」


(*1:この書類の日付はこの会話の1年前。つまり、少なくとも1年前からその男がいて、子作りに生の精子を提供するような関係だったということ)


いたずらがバレました、テへへ、というような口ぶりのユリ。



・・・僕はさっぱり笑えないけどね。



冗談って言っているけど、書類を細工して冷凍の精子が使われたと僕に思わせようとしていた時点で、どう考えても冗談じゃないだろ。

本気の金目当ての、計画的な詐欺行為だろうが。

クリニックを本気で怒らせて、自分がやったことがもしかしたらヤバいとやっと気づいて、突然「冗談だった」って言いだしただけだろ。


しかも離婚成立の裁判が真っただ中だった去年の9月から、もう他の男との子作りを、体外受精で、しかも他人(=僕)の金で、計画的に始めていたってどういう神経だよ?


っていうか、今日持ってきた資料は去年のだけど、昨日電話でブチ切れてた時は一昨年だって口走っただろ。

まだ結婚してた時からそいつがいたんじゃないのか?

散々シングルマザーとして生きていくって言うから、カイトのために高額の和解金や養育費にも応じたんだよ。

最初から男がいるなら、そいつに頼ればよかっただろう。



僕は目の前でしゃべり続けるユリの顔を冷淡に見つめました。



こいつ、本当に人間なのかな?



カイトの母親で、カイトの世話をしてくれているからと甘い顔をしていたが、どこまで調子に乗るつもりなんだ?



視界がぐにゃりとするような、湧き上がる怒り。


いや、ダメだ。余計なことを考えるな。

こいつ相手に、人としての何かを少しでも期待したら、僕がもたない。



こいつと離婚して本当によかった。

それだけははっきりしている。



別にこいつの人生には一切興味ない。

カイトに会い続けるという目的さえ叶えられるなら、こいつがどこのどいつと子供を作ろうが、再婚しようが構わない。


機械的に、必要なことだけこなすんだ。



余計なことを考えたら、当時の僕は本当に倒れてしまいそうでした。


勝手に離婚届を出されてからもう2年近くが経過。

もうこれ以上、ずっとこうして揉め続けて自分の人生を無駄にしたくなかった。

いつからその男がいたとか、いくら取られたとか、もう一切合切、過ぎたこと全てを不問にして、ただこれからカイトとずっと会っていくためだけに、この人間の形をしたなんだかよくわからない物体とも何とか折り合っていこう。



と、この頃の僕はまだ考えようとしていたのでした・・・。

 

 

↓よろしければクリックお願いします!


にほんブログ村


人気ブログランキングへ

 

 

 

続く