カンボジアに一週間程行ってたお母さんが帰ってきた。
開口一番、すごい良い旅だったけど後悔が一つあると。
最終日の空港で一週間お世話をしてくれたガイドさんにチップを渡すか渡さないかを、一緒に旅をした友人と話したらしい。
友人は渡さなくていいんじゃない派…
お母さんは友人がそう言うなら渡さなくてもいいか派…
完全に渡さないことに決まったけど、お母さんはガイドさんが荷物を並べてくれている時に手を握って握手するフリをしてこっそり渡したらしい。
1ドル札を渡したらしい。
で、その1ドル札っていうのに後悔していると。
カンボジアのガイドさんは月収が120ドル前後らしく、それを思うとポケットに入ってたお金を全部渡せば良かった。
10ドル札を何枚かそのまま持って帰ってくるくらいなら有り金全部そのガイドさんに渡して帰ってくれば良かった。
…いや全然1ドルでいいでしょと僕は思いました。
月収120ドルで1ドルって、日本で月収20万に対しての2000円くらいの感覚だとしてチップとしては充分だと思いました。
ポケットに入っていた50ドルを全部渡していたらそのガイドさんはこの一月で人が変わっていたと思いました。
1ドル札であったことによってそのガイドさんは救われたんだ!くらいまでは簡単に思いました。
ガイドさんは人生最大の危機を乗り越えたんだ!くらいまでは鼻ほじりながらでも簡単に思いました。
でもそのガイドさんがどんな人だったかを聞いて僕は込み上げてきました。
まず女の子でした。23歳。一生懸命日本語を学んでやっとガイドさんになれたこと。それでも一日や一ヶ月、一年の単位がよくわかってないみたいで、「明日の一年であそこを案内します」と時間の感覚が精神と時の部屋の住人みたいなこと。
ちゃんとした日本語を教える人もいない。
148cmで38kg。そんな小さな身体で重い荷物を必死に運んでくれたこと。
僕は込み上げてきて、一度も見たことないその子に、その子の為ならなんでもしたいと思いました。
1ドル札をこっそり受け取ったその子は、ぎゅっとお母さんの手を握りしめて、汗を流しながら驚きと申し訳なさと嬉しさが混じった笑顔をしてたみたいです。
見てないけど、そんな笑顔されたらきっと有り金全部渡したくらいじゃまだ足りないって思うと思います。
お母さんの後悔を理解しました。
お金は使いようって言うけど、心が綺麗な本当のお金持ちは募金とか寄付に力を入れるってそういうことなんだ。
人の為にお金を使うってどれだけ素晴らしいことか。
そんなことを心に刻んだ直後、僕はふと我に返り、自分だけの為に我を全面に押し出したロト7を買いに行くのでした。