酒とオカマと男と女 -8ページ目

酒とオカマと男と女

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お金も無く寝場所も無く街をさ迷ったと言う。

空腹と寒さも限界に来ていた。

悪い考えが頭の中を巡ったと言う。

助けを求める方法も知らなかったと言う。

万引きや恐喝、強盗…

そんな最悪な方法しか思いつかなかったと言う。

ターゲットを探して電車の高架下を線路に沿って歩いたと言う。

僕はとてつもなく怖くなった。

結局ひろしさんは罪を重ねる事は無かった。

まだ組の上の人の事信じていたから。

――――――――
僕は我に返った。

売上げと釣銭をレジ代わりの引き出しに入れたまんまだったのだ。

引き出しはひろしさんから丸見えの位置にある。

(どうしよう…)

と、ひろしさんがトイレに店を出た。

お店は狭く、隣のお店と共同な為、僕の店の真横にあった。

(逃げようか…)
(何で?)

すぐにひろしさんは戻って来た。

僕は「一曲歌いますか?」とカラオケ本をひろしさんの前に置いた。

ひろしさんは僕の言葉に驚きながらもページをめくり始めた。

その隙に、

僕は引き出しからお金を取り出した。
一万円札一枚と小銭を残して。

ひろしさんが決めた曲をセットしながら「タバコ買って来ますんで歌ってて下さいね。5分以内には戻りますんで!」と、わざと引き出しに残した一万円を見せて小銭だけを取って、店を出た。
間違い無く引き出しの一万円はひろしさんにも見えたはずだ。

地上に出て小走りに店を離れた。

僕は怖くて帰ってもらう事も出来ず、逃げる訳にも行かない。何をされた訳でも無い。二本目からは僕が勝手に出したビールだった。

話に聴き入ってしまってたのである。

もしかすると僕はターゲットなのかも…そう一瞬考えた為に気持ちが焦った。

だから、あえて一万円のある事を教えてお店を出たのだ。

タバコ買って戻る際はわざとゆっくり歩いた。

ひろしさんは引き出しの一万円を盗んで逃げてるはずだ。

盗んだのだからもう来る事は無いだろうし、

とにかく、かかわり合いたく無かった。

お店のある通りは真っ暗だった。

(街灯が数本ついてないだけでこんなに真っ暗になるなんて…)

地下への入口に立って階段の下にある店を覗き込んで、耳を澄ました。

作戦は成功だと確信した。

そして、階段を駆け降りた。

…つづく
次の日も一日中手がかりを探し回った。

何の手がかりも掴めぬまま二日が過ぎた。

(刑務所に服役中は、それぞれに応じた作業が与えられ、出所の際にその働いた分がわずかだが支給される。言わば給料の様なものらしい。)

ひろしさんの所持金はこのたった三日のうちに既に底を着きかけていた。

ほとんどお酒に消えたと言う。

もう行く所もお金も気力も無くなったと言う。

二月の寒空の下で二日間眠ったと言う。

いつの間にか僕もビールを飲んでいた。

カウンターにはビール瓶が数本並んでいた。

…つづく
ひろしさんの目の前にあったのは真新しい広々とした駐車場だった。

あるはずの場所に組は無かった。

組はおろか、周りにあったお店や家の数十件は影も形も無くなっていた。

ひろしさんは記憶を辿り歩いた。

赤い提灯に明かりがついていた。

昔仲間と何度か訪れた事のある一杯飲み屋だった。

店主は代替わりしていた。
狭いカウンターでは、派手な化粧の老婆がガラガラに枯れた声で一人でぺらぺらとしゃべり続けている。

ひろしさんは注文したビールが出て来る前に、組の事を聞いた。

ひろしさんが話きる前に、
『そんなもん、とっくに無くなってあるかいな!ヤクザも大変な時代や。』

と老婆が声を大に言い放った。

組は数年前に無くなったという。

老婆はこの街で二十年以上もの間ポン引きをしていて、この街の裏事情を知り尽くしていた。

ひろしさんいわく、その老婆はひろしさんの素性を見透かしていたと言う。

…つづく