お金も無く寝場所も無く街をさ迷ったと言う。
空腹と寒さも限界に来ていた。
悪い考えが頭の中を巡ったと言う。
助けを求める方法も知らなかったと言う。
万引きや恐喝、強盗…
そんな最悪な方法しか思いつかなかったと言う。
ターゲットを探して電車の高架下を線路に沿って歩いたと言う。
僕はとてつもなく怖くなった。
結局ひろしさんは罪を重ねる事は無かった。
まだ組の上の人の事信じていたから。
――――――――
僕は我に返った。
売上げと釣銭をレジ代わりの引き出しに入れたまんまだったのだ。
引き出しはひろしさんから丸見えの位置にある。
(どうしよう…)
と、ひろしさんがトイレに店を出た。
お店は狭く、隣のお店と共同な為、僕の店の真横にあった。
(逃げようか…)
(何で?)
すぐにひろしさんは戻って来た。
僕は「一曲歌いますか?」とカラオケ本をひろしさんの前に置いた。
ひろしさんは僕の言葉に驚きながらもページをめくり始めた。
その隙に、
僕は引き出しからお金を取り出した。
一万円札一枚と小銭を残して。
ひろしさんが決めた曲をセットしながら「タバコ買って来ますんで歌ってて下さいね。5分以内には戻りますんで!」と、わざと引き出しに残した一万円を見せて小銭だけを取って、店を出た。
間違い無く引き出しの一万円はひろしさんにも見えたはずだ。
地上に出て小走りに店を離れた。
僕は怖くて帰ってもらう事も出来ず、逃げる訳にも行かない。何をされた訳でも無い。二本目からは僕が勝手に出したビールだった。
話に聴き入ってしまってたのである。
もしかすると僕はターゲットなのかも…そう一瞬考えた為に気持ちが焦った。
だから、あえて一万円のある事を教えてお店を出たのだ。
タバコ買って戻る際はわざとゆっくり歩いた。
ひろしさんは引き出しの一万円を盗んで逃げてるはずだ。
盗んだのだからもう来る事は無いだろうし、
とにかく、かかわり合いたく無かった。
お店のある通りは真っ暗だった。
(街灯が数本ついてないだけでこんなに真っ暗になるなんて…)
地下への入口に立って階段の下にある店を覗き込んで、耳を澄ました。
作戦は成功だと確信した。
そして、階段を駆け降りた。
…つづく