2年ぶりの一時帰国直前の

まさかのコロナ感染という事態を

切り抜けて

たどり着いた実家

 

 

 

 

その惨状は

より一層酷くなっていた。

 

 

キッチンを埋め尽くす

広告や新聞紙の山

 

13畳はあるはずのキッチンで、

まともに座れる場所は

母の椅子とその前のテーブルの

スペースのみ

 

キッチンの長テーブルは

最大八人座れるほどの

大きなものなのに

すべてゴミで覆われている

 

そのゴミの山から

出てきたのは

数々の請求書

 

 

近くの電気工事業者からの請求書

約6万円

また、父の初盆の際の費用

約16万円

父の年金の返納依頼など

約30万円

 

といった具合だ。

極め付けは固定資産税の督促状

慌てて市役所に問い合わせると

電話での回答はできないと

 

母を連れて

市役所の窓口にいって確認すると

2020年から固定資産税が未納となっていると。

 

追徴含めて総額644800円

 

コロナ禍の

不幸中の幸いは

こうした全ての支払いが

オンラインや、クレジットカードで

できるようになっていたことだ。

 

 

この間も、

一見、母との会話は成立する。

だが明らかにさっき言ったことを

覚えていない。

 

何をしに市役所に行ったのかも

思い出せない

 

やはりおかしい。

 

できることを済ませ

夜を迎え、

さらなる問題が露呈する

 

2階のかつて自分の部屋であった場所も

母の謎の衣類で埋め尽くされており

 

その隙間を縫うように布団を敷き

ひとまず休む

 

「お風呂が入ったよ」

と言う母の声がするので

 

「わかったー」と

降りていくところで

母が

「ちょっとお風呂の流れがわるいんだけど

 気にしないで」

「ふーん」

と軽い気持ちで浴室を

覗くと愕然とした

 

 

風呂の洗い場が

池になっているのだ。

 

異臭こそないが

くるぶし近くまで水が溜まっている。

 

なんなんだ?

これは?

「いつからなの?」

「うーん、2、3日前からかしらねぇ」

 

嘘だな。

 

そういう感じでは全くない

もっとも、

もはや母のそう言う返答は

何一つ信じてはいないが。

とりあえず

バスタブには入れるが、

とてもでないがゆっくり入る

気などしない。

 

 

さっさと部屋へと戻りそこから

ネットを猛検索

 

信頼できそうな工事業者をあたる。

翌朝朝イチで工事業者に電話

 

昼過ぎにはきてくれると言う

ありがたい

 

だがそれまでの間に

更なる問題が露呈

2階にあるトイレが

詰まっていて

汚物で溢れている

 

さらに母が

全く進めていなかった

遺族年金の手続きを進めるために

必要書類を探すも

 

ゴミの山であり至難の業

 

もう気が遠くなりそうな思いである

 

昼になり、

電話した水道業者がきて実態を調査

 

浴室の排水部分が完全に錆びてしまっていて

それで水の通りが悪くなっていると

 

で、どうすんの?

 

場合によっては

風呂場のユニットごとの

交換も必要と

 

さらにトイレの詰まりを相談すると

それも見てくれて

そこはひとまず流れるようにはなったが

 

そもそもその詰まり自体が

外の排水パイプとも

関連しているかもしれないと

 

もう全部やってください😭

 

こちらも

いつまでもいられるわけではない

 

香港に戻ってからの隔離ホテルは

航空会社の事情による場合を除き

キャンセル不可

 

既に帰国前の自主隔離で

2週間近く仕事も休んでいる。

 

日本にいる間に

やれるだけのことをやらなければ。

 

追加でわかったことは

下水の配管を木の根が

食い破り

それが大きなつまりの原因に

なっていると

 

実際

木の根がびっしりとつまった

排水管を見せてくれた

 

なるほど

でもそれをやり直すには

大部分がコンクリートに埋まった

排水パイプを全部掘り出し交換し、

またコンクリートの埋め戻しが必要と

 

さらに風呂の排水溝も

局所的な部分交換はできず

 

やはりユニット丸ごとの交換が必要と。

 

立て続けに露呈する事態に

めまいがするが、

 

愚痴っても自体は解決しない。

まずは冷静に

なすべきことを進めよう。

 

念の為

知り合いの不動産関係の知人に連絡をして

「こういうふうに言われているけど

 そういうものですか?」

と確認。

 

「築30年くらいだと

 水回りのトラブルは起こり得ますよねぇ」

 

と。

ならば仕方ない

母が快適に暮らせるレベルで

必要最低限の範囲でお願いします

 

ということで

この時の工事総額が192万

 

2年ぶりの苦労しての

一時帰国で、

あれよあれよと言う間に300万近くが

吹き飛ぶ悲劇

 

固定資産税の未納分と

この工事費とを

日本にいたときから使っている

アメックスで支払ったのだが、

 

このカードは香港では

しばらく使っていなかった。

 

このため、

カード会社が

第三者による不正使用を疑い

一旦カードを止められるという

おまけまでついた。

 

まぁそりゃそうだろう🤣

 

それにしても

一晩で豪遊して300万使ったとか

聞くことはあるが、

 

 

自分は

全く豪遊していない。

ゴミの山の隙間で眠り

洗い場が池と化した風呂に入り

この間酒も飲まず

 

300万円が吹き飛んでいく

シュールすぎる世界

 

日頃の過酷な

ハイキングやキャンプは

まさにこのための

トレーニングであったか!

 

と変な方向で自分を納得させてみる

(もちろん納得できないが)

 

その合間に

ようやく見つかった書類を揃えて

年金センターに赴き、

父の遺族年金の手続きを完了。

 

朝からいろいろと

手続きのために出歩いていたが

夜は実家に戻り母と食事を取る

 

といっても

近くのファミレスまで車で行って

食べる程度であるが

 

母の状態を確認するためにも

重要なプロセスであった。

 

母は記憶面では、

やはりおかしいものの

食欲もあり、店員さんへの応対も

目立っておかしいところはない。

 

だがやはり運転はおぼつかない。

これはやはりやめさせなければ。。

と思っていると

 

食事からの帰り道、

自宅への車庫入れの際に、

見事に車を壁に擦った

 

「もうさ、運転やめよう?

 人を傷つけたら、

 取り返しがつかないよ?」

 

母もようやく悟ったのか

車の運転を止めることに

同意してくれたのが

唯一の収穫であった。

 

先だって連絡をくれていた

ディーラーの方に連絡をして

後日廃車手続きを

進めてもらうことに。

 

調べてみると

家のすぐ目の前に

本数は少ないが

「乗合タクシー」のようなものもあり

それで母の生活圏はカバーできそうでもあった。

 

実際ににこれに、

一緒に乗ってみて

母に練習させておいたことも

後押ししたかもしれない。

 

そんな慌ただしい2年ぶりの

2022年3月の一時帰国

 

それでも

もう一つやっておきたかったことが

母の傘寿のお祝い

 

 

数々の露呈した問題はあっても

「母は母」

 

父なき今、

唯一の血縁である。

 

母の誕生日は7月ではあるが

7月にまた帰って来られるかは

わからない

 

なんとか母を連れ出し

東京でささやかではあるが

お祝いをして

 

 

 

 

どうしても

言っておきたかった言葉を

いえたことで

とりあえず自己満足している

 

 

 

 

「産んでくれてありがとう」

 

と。

ここ数年、

母とはお金を巡っての

口論ばかりであったが

これだけは言っておきたかった


早々に認知症が進行し

コロナ禍であっという間に

他界した父には

「育ててくれてありがとう」

を言いそびれたからこそ。

 

どこまで母に届いたのかは知らないが。

 

そのお祝いをしたあと

母を家に帰し、

 

ちょっとだけのME time.

 

 

 

短い時間の中で、

取り決めた水道ー風呂工事

 

ネットではたくさんの業者があり、

 

中には悪徳な業者もいるかと思うが

こちらの業者さんが大変誠実だったのも

救いであった。

 

水道工事以外にもいろいろとやっているようで

「ゴミの処理とかもやってますんで!」

といってくれたのは

家の惨状を見てのことだろうか。

 

ただ業者さんが誠実でも、

肝心の母が、工事のことを

忘れていては困る。

こっちはお金払っちゃってるし

 

ということで

この時から母へ毎朝

日本時間の8時50分に

LINEで電話をするということを始めた。

 

それでも

「4月19日から工事だよ!」

と何度いっても、

「今日は来ないの?」

と訪ねる母に多大なる不安を抱きながらも

 

無事に工事は完了

業者さんは、進行具合を逐一

写真に撮って送ってくれるという

丁寧さであった。

 

一旦は、母と自分とをとりまく生活が

落ち着いたかに思えた。