ここ数年のソフトウェアブームは一つの産業を作り上げて、その規模を益々大きくしながら成長を続けている。
前のブログにも書いたことがあるが、この成長の沢山ある要因の一つに「顧客のナラティブを可視化したこと」が挙げられると思われる。
顧客のナラティブは、一貫したセールスサイクルの中でインサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセスとバトンタッチで引き継がれていく。ここでいうナラティブとは、顧客が製品を購買するまでの物語を意味し、顧客の全体性を観察することから始まる。観察し、対話し、その中で顧客を文字通り理解する。どんな理由で・どんな課題を解決したくて・どんなテンションで導入しているかを把握する。この何度も繰り返される対話の中で製品提供側は顧客にフィットする提案に仕上げていき、また顧客側も製品側を受け入れる準備をする訳である。
なんだか動物の交尾みたいだ、と思う。交尾をする相手は羽の大きさとか泳ぎ方とか明確なアイコンがある場合もあるが、それでも受け入れられない場合もある。相手を選ぶという営み自体が相手の全体性を受け入れる過程であり、要素偏重では無い。
ソフトウェアの営業においては、もっと時間は限られているので限られた時間で信頼を獲得する手法みたいなものが確立されているし、そうであったとしてもゆっくり時間をかけて関係を詰めていく部分は変わらない。
おそらくソフトウェアSaaSの最大の功績は、カスタマーサクセスを開発したことだと思われる。カスタマーサクセスはKPIを持つべきではない。(本来は)顧客が受け入れられる全体性を体現し、ナレッジの代弁者であり、そして分野の生態系を司っていく。彼らが担っているのはKPIではなく、顧客のナラティブである。
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買い切り型のツールもそうだし、ソフトウェアというものは全般としてこのような関係性にフォーカスを当てたロールは存在しなかった。これは時代の要請として、顧客をステークホルダーとして認定する流れと符合している。顧客がステークホルダーになっていないアジア圏ではカスタマーサクセスという言葉自体がサポートと同義と言っても良い。KPIとして管理可能だからだ。
ここからはCSと呼ぶが、CSの考え方が大好きであるし、私もかれこれ8年くらい多かれ少なかれこの仕事をやっている。
話は脱線するが、創造性とは何か?と問われたときに、それは既存の要素を掛け合わせることで新しい領域を生み出すことだと言われる。一番イメージしやすいのはスティーブ・ジョブズが作ったiphoneだろう。
この掛け合わせは一般的には製品や技術や市場領域の組み合わせであるが、もっと大事な要素はナラティブである。iphoneのナラティブはテックサビーなITガジェットオタクに向けた洗練されたデザインであり、それがスタバ信者のような意識高い系に刺さることで市場を広げていった。
優秀な技術と領域が合わさればイノベーションが生み出されるわけではなくて、使い手の空気にフィットして、馴染んでいることが本質である。そのためには当然ながらナラティブの代弁が必要であり、それがデザイナーやPMそしてCSを媒介として世に生み出されていく。だから、イノベーションを学びたいなと思った時に、ナラティブから入ってみるというのは有効なアプローチだと思うわけである。
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巷によく聞く「あなたの課題を知りたい」という営業アプローチは視野が一箇所に偏っている。(という私の意見)
この課題→提案という流れ自体が、相手をどうにかして懐柔したい・コントロールしたいという視座に立っている。だが、例え関係が成立したとしてもその関係は提案の質にのみ立っているので、非常に際どい関係の持ち方になる。
私自身は現在CSやCXで3社、事業開発関連で2社と関わっているけども、彼らには全く営業をかけておらず、自然と自分の関係の最中で先方からアプローチいただいたり、自然と案件に結びついている。また、これらの会社とはもう4年間の付き合いになるところもあるし、なんだかんだ継続してもらっている。継続しなくなっても、また案件ベースで繋がっていくだろうという所感である。
なのでライフタイムでお付き合いし続ける前提で自分のやることを決めていっている。
営業術や案件獲得手段は技術として大層なものではなく、ただ先方との関係性の自然な場所に、いるだけで良いのである。いて、自分が何者なのかを覚えていてもらえればそれで良い。
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この世の中に可視化されていないナラティブはどれだけあるだろうか?
おそらくそれは無限にあるだろう。例えば父性と母性の違い・国籍による文化の違い・会社のマネージャーとプレイヤーの違い・性別の違い・などなど。これらのナラティブをできるだけ丁寧に棚卸しするというのが、きっと次の世代に求められる広義のCSの役割になるだろう。(CSは役割でなく・概念である)
最近はCSに売り上げ目標がついて、どんどん売り込み要員になりつつあるが、まぁそれはそれとして、優先順位は履き違えたくないところである。