おつかれさまです。コガダバです。
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「で、名前何にするの?」
わたしは新年会に連れてこられた友人の子供を見つめながら、半年後に父親になる別の友人に問うた。
「いやあ、第一候補は嫁と話し合って一応決まったんだけどさ。ほんとうは俺、ジョウスケかジョウタロウって名前にしたいんだよね。」私は馬鹿なことを、と思ったが黙っていた。
年が改まり、安い居酒屋に集った中学時代の旧友たち。私も含めて四人。そのうち二人は結婚をし、一人には今月一才になる娘が、もう一人も半年後に息子を授かるのだという。生まれてくる子の名前を、漫画のキャラクターと同じ名前にしたいという友人は続けて「イチゴもいいな。」と楽しそうに言い放った。
「ところでコガダバはLINE始めた?」
いずれは来る、と思っていた質問だった。
「そういや年末にいよいよやるって言ってたな。」そうだそうだ、と全員が私を見る。
「いやあ、まあね。」実はまだ登録していなかった。
こんなことを言うのもなんだが、私は友人や家族、職場などに気軽に連絡を取られる環境を避けるために、去年の中頃までガラケーを使い続けていた。にわかに壊れてしまったためにスマホに契約変更したのだが、メールのやりとりでも気が滅入るものなのに、LINEなんか始めた日には色々が気になって暮らしが立ち行かない。誘われても誤摩化していたのだった。ところが今回の新年会の詳細を私に伝える際、私一人だけメール連絡をしなくてはならないので、この会の幹事とさらに別の友人からLINEの催促があった。乗り気でないものの、私は適当に肯定の返事をしてあったのだ。
「まあねっていうかさ。」と幹事。
「なんでやんないの?」もう一人が続く。
生殺しだ。この際スマートにでなくてもいいから、何とかうまく話を逸らさなくては。いや、いっそひと思いにやってくれ。そのとき目の前の乳児と目が合った。
「あ、子供。自分の手を食べてるよ。」友人の子が自分の小さな握りこぶしを、まるごと口の中へ入れていた。
「ああ平気平気。」よくやるのだと父親が言う。
「近藤勇じゃん。ははは。」
私も友人らと一緒に笑った。
そんなことで、その夜のLINE勧誘はなんとか避けつつ、楽しい飲みの席は通常運行となった。定期的に集まるこの会は、家庭を持つ者が増えるにつれ健全な時刻に打ち止めするようになっていた。やがて自然とお開きとなり、みんなで近くのTSUTAYAへ行き、嫁の許可なくゲーム機が買えない、などの愚痴を聞いた。私はこっそり星野源のライブDVDをレジカウンターへ持って行き、周囲を警戒しながら購入した。
子連れの友人は飲酒しなかったので、彼の車でみんな送ってもらえることになった。私は友人とチャイルドシートに挟まれて、肩幅をせばめながら荒い運転に身をゆだねた。独り者の身軽さに、友人たちの目を盗んでけっして安くはないDVD購入したことや、再びLINEアタックが襲ってこないか、などと思いながら、硬直した私は棺の中にいるようだった。
