あなたはもう今季プレミアリーグの覇権争いは終わったとお思いだろうか。
マンチェスター・ユナイテッドがその揺るぎない安定性をもってリーグを制すると。
確かにその可能性が一番高いということは認めざるを得ないが、サッカーとは最後の最後まで何が起きるかわからないスポーツなのだ。
そしてここで断言しよう。
覇権争いはまだ終わっていない。
なぜならブルーズはまだ死んでないのだ。
今季モウリーニョショックから立ち直るべくブラジルの名将フェリペ・スコラーリを監督として迎えた。
スコラーリの愛弟子であるデコもバルセロナから呼び寄せ覇権奪還への体勢は整ったかのように思われた。
しかし現実はそう甘くはなく、ポゼッションサッカーを信条とするスコラーリサッカーはチェルシーサッカーとはそりが合わず、各選手の士気も下がりきっているようだった。
不甲斐ない試合内容の結果、サポーターからの不満の声も挙がり、ついにフェリッポンの愛称で呼ばれた監督はスタンフォード・ブリッジを後にすることになった。
そして新たに迎えられたのはヒディングマジックでお馴染みの現ロシア代表監督を務めるフース・ヒディングだ。
どうやらオーナーのアブラモビッチの懇願によってロシア代表とも兼任でチェルシーの監督を今シーズンいっぱいまで務めることになったようだ。
そして初戦をアストン・ビラに1-0で競り勝ち、チャンピョンズリーグではユベントスを退け、続くウィガンをも2-1で下しここまで3連勝をあげている。
アストン・ビラ戦は1-0と数字を観ただけではただギリギリで試合に勝ったという印象しか受けないかもしれないが、試合を観た立場から言わせてもらえば明らかにチェルシーは変わっていた。
何よりも選手一人一人の表情が変わり、気持ちが充実した感じでプレーからは今シーズン感じることのできなかった気迫が伝わってきた。
そう、あの栄光時代を築いたチェルシーの強さが戻ってきたのだ。
選手達はボールをワンタッチ、ツータッチでまわすようになり、スコラーリの時はショートパスばかりでロングパスをほとんど見ることができなかったが、この試合では効果的なロングパスが何本か見られた。
元々技術の高い選手が揃っているのだからロングパスが通ることは当たり前のように思われるかもしれないが、サッカーの質自体が変わったことに驚かされた。
ヒディングマジックとはここまで全てを変えてしまうものなのか、ドログバとアネルカがボールに絡むとワクワクする感覚を久々に感じることのできる試合だった。
ビラの調子が落ちているという事実はもちろん加味すべき事だが、チェルシーの大人なサッカーに手も足も出ない状況だったのは誰が見てもうなずけただろう。
そしてユベントス戦が終わった後、中2日で行われた対ウィガン戦。
この試合も感想を言わせてもらえば、チェルシーのチェルシーによるチェルシーらしいサッカーを観ることができた。
前半立ち上がりからの20分間と選手交替の隙をウィガンに突かれ得点を許した時間帯を除いてはチェルシーがウィガンゴールに猛然と襲いかかり、相手GKのカークランドとDFのブランブルとボイスの粘りに阻まれたため大量得点には至らなかったが、息を呑むシーンは何度も観ることができた。
そしてこの試合で最も良かったことは後半ロスタイムにランパードが勝ち越しのゴールを挙げたことだ。
ウィガンに一瞬の隙を突かれ同点に追いつかれてしまい、ユベントス戦の疲れの影響も出てきたせいか選手の動きが鈍くなっていたが、サッカーの真髄を知る男がこの試合にけりをつけてくれた。
実はヒディングサッカーによって最も輝きを取り戻したのはアネルカでもドログバでもなくランパードなのだ。
モウリーニョが率いていた時と同じくランパードは前線によく顔を出し、積極的にボールに絡むと同時にゴールを狙う。
こういったプレーこそがランパードの真の魅力であり、リヴァプールのジェラードと渡り合えるMFの姿を久々にこの試合で見ることができた。
このランパードが奪ったゴールのごとくチェルシーはまだ覇権奪取を諦めていない。
ブルーズはまだ死んでいないのだ。
ヒディングマジックによって命からがら奈落の底からはい上がったチェルシーをシーズン終了時まで軽んじることは決してできないだろう。