奈良岡さんの死に際し、劇団員として民藝との関わりが薄いようなわたしにまで様々な方がこころを傾けてくださり、言葉をかけてくださり、劇団の代表をなくしたことの大きさを知るようです。

一番に思い出すのは『「仕事クラブ」の女優たち』で座って話し続けるあの声。あれだけ沢山若い女優が出ているのに誰よりも凛として、広い客席で直接わたしだけに向かってくるような真っ直ぐな声でした。

劇団でお会いするのは年に二回の総会で、コロナ前の忘年会では若手で周りを囲んでお話しを伺うこともありました。入団二年目には「満天の桜」の読み稽古を見学しましたが、その程度の関わりで、だからこそそう、こうして今すぐ言葉にできているのです。



奈良岡さんの言葉に胸が高鳴ることもあったし反発を覚えることもあった。その一言で自分の進退が決まったこともあった。
「アンネの日記」オーディションの審査員席にいらっしゃったあの日から、芝居を観ていただきちらっと名前を覚えていただき、こちらはこちらで何も見逃すまいと舞台上の彼女を観て、民藝という場所で人生の少し少しが交わっていました。

大きな劇団の片隅から小さな女優が、その中心に居たひとへ小さく喪の旗を掲げてみる。仰ぎ見るその旗が夜空に溶け入って、どうか民藝の背景に新しく瞬く、一つの星を見出せますように。

本当に本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。