手がひどく荒れるので意を決して皮膚科へ行った。
「どうしてこうなるんでしょう?」と聞いたら「ぼくも知りたいです。なんでですか?」と返ってきて、わたしは何のために来たのだろう。けれど待合室の大きなスクリーンで映画を観ていたら、このためかしら、という気がして、さらに「お父さんがこの病院に来たら喜ぶだろうな」と思って笑ってしまった。それが父の好きな映画だったからだが、わざわざここで観なくたっていいだろう。

大好きな友人に会いお茶をしてから、並んでみたい、というお店に、普段は行列嫌いの二人で並んでみた。ほかのものはすぐに買えるのだが、メンチカツだけは、並ばなくてはならないのだった。立ち話をしているうちに順番は来て、友人はわたしにも、熱々のまん丸いメンチカツをいくつも持たせてくれた。

家族のためにと買って帰る彼女を羨ましく思いながら、ふと、メンチカツはわたしにとって何か特別なものだったな、と頭の隅っこで引っ掛かった。上京するまで食べたこともなかったメンチカツにどんな思い出があるというのだろう。

ずいぶん頭を抱えて、ついに思い出したらくだらなかった。
あれは稽古の後、三人で飲んでいたら、注文したメンチカツが運ばれてきた。お皿に二つ。「ぼくメンチカツ嫌いなんです」と彼は言って、揚げ物が嫌いな人はいるとしても、メンチカツ限定で嫌いな人っているのだろうか。明らかな嘘に三人で笑い、二つをそれぞれ半分にして食べた。

良いにおいを連れて帰りながら、一緒に食べたいと思った。今なら人数分あるのに、と真剣に考えて笑ってしまう。メンチカツのために招集されたんじゃ敵わないだろう。

ほんとうに何にもならない想いに出会っては、わたしたちは違う世界を見ているのだ、と、はっとする。意図せず生まれた想いは、誰のためになるわけでもなく、わたしのなかで行き場を失う。ならばせめてこのくだらなさを、一編の詩にできたらいいのに。