外部出演の公演3日目、あと1日という日の夜
電車に乗ったら
ワイシャツに、鮮やかな花柄のタイ、黒い帽子のおじいさんが、『ファウスト』を読んでいる。

ある人が、若いころ、演劇を学ぼうと民藝の俳優に会いに行ったら、「『ファウスト』は読みましたか?」と聞かれたという。

そんなことを思っていたら、本一冊しか入らないような鞄にそれをしまい、足を組み換え一声唸って、一駅で降りていって、
わたしはちょうどその日、自分の力不足に悲しくなったのだったが、


ちゃんと元の生活に戻って、勉強しなさい、帰ってきなさい、と言われたようだった。だって舞台に立つには早いだろう?と慰められたような諭されたような気がした。