いままで観たなかで一番良かった舞台は何か

と聞かれて、自分の観劇を振り返ってみても、すぐに出てくるほどの芝居はなくて、あまり観てこなかったんだな、と思うに至る。

挙げるとすれば、それは「炎の人」だった。誰が何と言おうと、純粋に観客であったわたしの心が動いたのだ。だから何の遠慮もなくそう答えればいい。だが劇団では…。わたしは滝沢氏の炎の人の偉大さを知らない。

だからわたしが、いままでの一番は市村氏の「炎の人」です、と言ってはみても、劇団ではなんの関心も惹かないわけで、もしかしたら市村氏自体、そんなこと民藝で言われたくはないかもしれないな、と思う。

昨年、初めてお話した劇団の大先輩は「テレビや映画は一過性のもの。舞台こそ永続するのよ。」と言った。自分の良いと感じたものが、観たことのないものに負けている。それは理不尽なようだが、舞台の永続性を確かに証明している。

それならば、というわけでもないが、存命にして演劇史に残る人の舞台を観た。

去年からチケットが取れるか友人と話し、年明けには早稲田大学の演劇博物館で予習。ピーター・ブルックの舞台はまだ観られるのだ。もっと前から観たかったと後悔してはみたが、「ハムレットの悲劇」のときはまだ上京していないし、「桜の園」のときはまだ1才、「マハーバーラタ」は1ヶ月。なんとしても観たかった「真夏の夜の夢」は、まだ生まれる前。

だから観るべくして観た「ピーター・ブルックの魔笛」。
終わったのだと思いはした、が、拍手をすることで感動が崩れてしまうのは恐く、遅れて動き出した手はもう、止まらなかった。

とても軽くて一瞬の心地よい、夢か本当か分からないもの。

あれは、魔法。

review
PETER BROOK
A MAGIC FLUTE
2012/3/22~25
彩の国さいたま芸術劇場