「鉄コン筋クリート」

「ピンポン」

など独特の描写で世界を構築してきた松本大洋。


その後も作品は読んできたが、

この世界は新しい松本大洋だと思う。


ファンタジー要素はないのだ。


文鳥と会話する元編集者の塩澤。

(この文鳥が巧みに話を展開する)


かつては大手の編集者だった。

自分が自信を持って創刊した雑誌が仲間内では評価されるも書店では売れない。

廃刊になってしまう。


責任を取る形で退職する。



漫画家の苦悩が描かれる。

自分の表現を優先するか売れるか。


かつての売れっ子の描けない悩み。

離れて暮らす娘との微妙な、しかし暖かい会話。

売れ始めた若者の歓喜とその後の葛藤。


編集者の姿も描かれる。



フリーになった塩澤。

新しいマンガ雑誌を創刊しようと格闘する。

評価されても売れなかった作家。

もはや老人ホームに入りそうな作家。


塩澤は自分が信じた作家に描いて欲しい。

地道に原稿依頼に誠実に歩く毎日が描かれる。


現役の編集者から相談される。

かつて売れっ子で今は書かないマンガ家の相談など塩澤は信頼されている。

そんな中年50代の人物なのだ。




書くことに苦悩する作家をおもんばかる。


“喜びとは苦悩の大木に実る果実である”

そうヴィクトル・ユーゴーの言葉を託して。



3巻目。 

冒頭は東北。

兄弟で徹夜でマンガを描いている。


そして売れて華やかな日々もあったのだが…



弟を喪いもう兄は描く気がない。

塩澤も無理強いはしない。

ただ想いは託す。



屋根の雪おろしを手伝う塩澤。

(屋根の雪おろしは危険。

少し残すのがコツ)


飲食店での仕事は実直だが他人と関わろうとしない。カエルはそんな日々を過ごしてきた。


塩澤を駅まで見送って。

兄カエルは弟のトオルに語りかける。




「なぁトオル…


  この地上さ、二人きりではねがったな…」




話は前後するが塩澤が想いを伝える場面。


「私はあなたの不器用な漫画を好きでした」





トオル以上にカエルを評価していた塩澤。

自分の漫画を描けと。




トオルに話しかけた翌朝。


無愛想なカエルにおずおずと仕事を頼みにくる同僚。

いつになく「いや、気にすな」と言葉をかける。

戸惑う同僚。



描きかけの絵が机にある。

林檎を持っている。



🌟

原稿が集まっても本が出来ても。

置いてくれる本屋さんを見つけねばならない。


塩澤は毎日毎日歩いて本屋さんをまわる。


🌟

松本大洋の新しい世界だと信じる。

或いは彼の「漫画家残酷物語」かもしれないけれど。


マンガの中で人物が立ち上がっているのだ。


とまあ発見のつもりで書いてみましたが。

とうに世間では評価されてるマンガなのかも。


そうだったらまあご勘弁を。

未読の方はぜひ❗️

単行本3巻です。