PERFECT DAY

それが積み重なってPERFECT DAYSとなる訳か。

考えられたパンフレットの装丁です。



多くの方たちが書かれているので断片的に印象を書いてみよう。


THE TOKYO TOILETの試みはもちろん以前から耳にしていた。

著名な野心的な建築家が公衆トイレをデザインしたと。

そのトイレを巡る旅も面白いなと思ったまま時が過ぎてしまっていた。


主人公の平山(役所広司)はその新しいトイレ専門の清掃員である。

近所のおばさんの早朝の掃除する箒の音で目覚める。おばさんはマメだ。

キチンと布団を畳み、歯を磨き、髭を整える。

朝のルーティンをこなしてトイレの清掃に向かう🧹

仕事ぶりは極めて誠実で丁寧。

自分オリジナルの清掃用具も持つ。

手鏡みたいなもので隅々まで目を向けて汚れを見落とさない。

「清掃中」の立て札を出していても入って来る方はいる。

その時には外に出て空を見上げて。

そして微笑む。


サンドウィッチを頬張りながらフィルム式カメラで木漏れ日を写すのがお決まりの楽しみ。


仕事後には開きかけの銭湯で湯船に顔を埋める。


馴染みの居酒屋でお決まりのお酒を飲んで。

自転車で古めのアパートに帰る。

(飲酒運転かもしれない)


そうして趣味の良い本を読む。

まどろみ始めるとメガネを置き、

(起き抜けに踏まないよう高い所に置いた方が良いと思うよ。と経験者は語る)

眠りにつく。

夢は何かしら不穏な気配がある。


カーテンで朝の光を遮る事はしない。

そうして朝が来て、また同じルーティンを繰りかえすのだった。


同じような日常でも予想できない事は起こる。

そのアクセントを見事に物語に取り込んでいる。

ヴィム・ヴェンダース監督の最高傑作かもしれない。


彼が車内で聴くカセットテープの趣味が良い。

様々な曲が流れるが根底はブルースの精神だと思う。

ローリング・ストーンズ

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド

ルー・リード

ニーナ・シモン

etc etc


無理やりカセットテープを持ち込まされて査定を受けると高額が付くのだった。 


(ボクの部屋にもカセットテープは洋楽も邦楽も置いたまま。かなりの量がある。

下北沢に持ち込んでみようかなあ?)


そう。

歯磨きは乱雑だと感じた。

あの磨き方では絶対に歯科衛生士さんに指導を受ける。厳しく。改善しましょう。


平山の休日に訪れるスナック(?)のママさん。

美味しそうな手料理を出してくれる。

「どうしてこのままじゃいられないのかな」

そうママは呟く。

常連客は彼女の歌をせがむ。

ギター(あがた森魚)を伴奏に彼女は「朝日のあたる家」を歌う。日本語で。


(凄く上手い。後で調べると石川さゆりさんだった。そりゃ上手い訳だ。

でもママさん的に少し崩して歌ってたかな)


古本屋さんにも立ち寄る。

幸田文(幸田露伴の娘)の本やパトリシア・ハイスミスの本を選ぶ。

これも趣味が良い。

教養の蓄積が本来あるのだろう。


眠ってたような店番の女性は、その本の素晴らしさを瞬時に的確に表現する。

本の達人のように。


平山の過去が少しかすめる。

だが彼は今の日常を選び続ける。

そうだね。

ルーティンの様な日々でも彼は毎日新しい一日を選び続けている。微笑みながら。


足るを知る。

それもあるかもしれないがそれだけではない。

平山は何か写経の様に気持ちを込めてトイレを磨く。

生き方そのものも悦びを持って。

まるで崇高ななにものかに捧げるように。

だからこそ穏やかなのか。



ベルリンの壁が壊されイデオロギーの対立が終わった時。

世界は民主的に平和になると希望があった。


だが解き放たれた欲望は果てしなく膨張した。

そして欲望は怪物となってゆく。


国家の間でも欲望による対立が生まれ、

争いとなってゆく。


この欲望に終わりはない。

焦燥を生み、疑心暗鬼を生み、対立を生む。


金を求めすぎると金に囚われる。

法に反しても求め、咎められると部下のせいにして逃れる。


権力の欲望もまた魔物なのだから。



平山のように生きていられたら良いな。

そのままは無理でも時に思い出すように。


カメラの長回しに耐え得る表情を生み出す役所広司さんの演技はやはり素晴らしい。

演じてる事を感じさせない。

平山自身を生きているかのようだ。





明日も今日が続きますように

平穏な日常が続きますように

ある日突然に

断ち切られることがありませんように