METライブビューイングの《つばめ》をこの前拝見して、思い出したことがありました。

私がパリで同じ演出でこの舞台を見た時、ヒロイン役が突然その日キャンセルし、ソプラノのインヴァ・ムーラが南仏からTGVに飛び乗ってやってきて、代役を務めました。

彼女にも特別な思いがあったのかもしれません。「公演を救いたい」と言う心でしょうか。

その時の彼女の演唱は語り草になっていて、フランスの新聞記事にも大きく出ました。

観客の凄まじい歓声のなか、ムーラは、テノールのフィリアノーティと一緒に出て来て、答礼をしましたが、フィリアノーティが彼女を押し出す形でオペラカーテンの中に引っ込み、ムーラがひとりで喝采を受けるカーテンコールが続きました。

彼女は途中で顔を覆って泣き出しましたが、その光景もまた、感動的であったのです。

本役の人のキャンセルは当日朝いきなりであったようです。

その劇場に私は前日訪れていて(仕事で中に入っていた)、楽屋前に「マグダ役の〇〇さんの楽屋」と書かれた紙が貼ってあったのも観ていたので、ああ、明日公演見るだっけと思いながら帰り、翌日またその劇場に来て、キャンセルを知ったのです。

私は以前、ムーラさんにインタヴューしたことがあって、彼女の人となりをある程度把握していたので、燃えるような思いでTGVに飛び乗ったんだろうな ー 南仏の公演かリハーサルの1日休みを利用してのパリ往復であったと聴きました ー と想像し、そのことでも胸が熱くなりました。

先日、その時の新聞記事がインターネット上に掲載されているのを見つけ、読み直しました。

十数年も前のことですが、まだ載っていたのです。

あの感動は多くの人が共有した、そう思うと嬉しかったりもします。

そんな風に「出演者の芸術性や気概で、突然、音楽的水準がびっくりするほど上昇する」のが《つばめ》や《西部の娘》《外套》《エドガール》といった、「プッチーニ裏街道路線のオペラ」の面白いところです。

METライブビューイングの出来栄えも素晴らしく、深く心に染みる良いステージとなりました。主演ソプラノの人が、キャラクターの心を信じて舞台に立っていたのでした。

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北陸地方の震災の義援金について、新しいお知らせが出ていました。

https://www.jrc.or.jp/domestic_rescue/2024notoearthquake.html

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WCARS(一般社団法人国際総合芸術研究会)のブログです。ご参考まで。
https://ameblo.jp/2022wcars/