水道橋のIMMシアターのこけら落とし公演、芝居『斑鳩の王子』を観に行きました。

お客さんはみな大笑い。私も何度も笑いました。

帰りがけに聴こえてきた感想だと「歴史がもう少し詳しかったらもっと分かったかな」という声が多かったようです。確かにそうかもしれない。

例えば、山岸凉子さんの漫画『日出処の天子』の愛読者なら、人物相関図はするっと理解できたと思います。

聖徳太子の時代の出来事を、割と忠実に芝居にしてあり、登場人物のセリフは関西弁で通し、ミュージカル的な部分もところどころ盛り込んでいました。場面がどんどん変わり、ブレヒトカーテンの使い方が良かったです。

伝えられている史実と異なる点は2か所でした。

1.炊屋姫(のちの推古天皇)が夫の敏達天皇の棺の傍で殯(もがり)にあるところ(つまり喪に服しているところ)、穴穂部皇子が忍び込んできて、炊屋姫をてごめにしようとするとき、史実だと、たしか、敏達帝の側近である三輪逆が飛び込んできて炊屋姫を救出するところ、このお芝居では穴穂部の弟の泊瀬部王子(のちの崇峻天皇)が止めに入った

2.その崇峻天皇が暗殺される場面が、野外になっていた点(史実では確か宮中で)。

ドラマをスムーズに進めたり、人の野心を表現したりするには、こういう脚色もあるかなと思いました。

休憩なしの3時間芝居というなかなかの構成。いろんな役者さんが一人数役兼ねるので、早変わりが大変であったと思います。ただ、主演の明石家さんまさん(聖徳太子、つまりは厩戸皇子)はこの役で通して。

私はこのお芝居を大いに楽しみましたし、作者の方(輿水泰弘さん)のコンセプトもよく伝わってきました。それは、「争いの芽を摘むべく早めに行動を起こすと、結局、そのことで、別の争いの芽や恨みの種が蒔かれる」というものでした。

ところで、こういう歴史ドラマを見ていると - お笑いの部分が非常に多くて、とても楽しめましたが - その一方で、「史実として伝えられていることの裏側」がぼんやり感じられたりもします。

例えば、私が伝え聞き、教わった聖徳太子の人物像とは「理想を追い求めて孤独になった人。善人であっても、現実問題を解決できたかどうか、そこは何とも・・・」というものです。私が育ったところがまさしく聖徳太子の事績満載の土地柄で、私の直接の先祖も聖徳太子に殺害された(と伝えられる)人物なので(芝居にも出てきていました)、そういった昔の言い伝えの類は多く耳にしてきました。自分の先祖が殺されるシーンは少し衝撃があり「ああ、また墓参しなければ」と思ったりもしました。

そういう言い伝えが本当かどうか、それは私には勿論分かりません。ただ、「言い伝えが嘘だ」と実証した人も、見たことはないのです。歴史の研究者の人って本当に大変だな・・・とつくづく思いました。史書を信じてよいものやら・・・となると、どこまで追究できるだろう。オペラなら、目の前にある楽譜が偽物でもないかぎり、楽譜を信じれば良いわけなのです。

今回、さんまさん演じる太子を観ていると、最後の場面で自分が聞いてきた話が強く思い出されました。「未来が見えているのだけれど、それだからといって我が子可愛さで未来を変えることもしてはならない」といった意味のセリフが出てきたのです。

また、弑逆された崇峻天皇や、(のちに暗殺される)蘇我入鹿とその父蘇我蝦夷といった人々は、「悪人では決してない」という言い伝えがあるということも思い出しました。このお芝居では、崇峻天皇(泊瀬部皇子)も蘇我蝦夷も結構なワルになっています<=それが史書の解釈でもありますが。

それだけに、当時の有力者にとって都合の悪い人間は、「悪者」として伝えられてしまう - そこに注意しなければと改めて思ったりもしました。逆に、真の悪人がぼかされていたり。このお芝居には出てきませんが、蘇我入鹿暗殺の首謀者である天智天皇(中大兄皇子)の評判の悪さといったら、森鴎外を始めいろんな人から言われていますよね。そうかもしれないと、改めて感じました。


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北陸地方の震災の義援金について、新しいお知らせが出ていました。

https://www.jrc.or.jp/domestic_rescue/2024notoearthquake.html


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WCARS(一般社団法人国際総合芸術研究会)のブログです。ご参考まで。
https://ameblo.jp/2022wcars/