大人数が出てくるオペラは、視覚的にとても複雑なので、目に留まったところをよく覚えておかれたら、それで十分だと思います。

私が忘れられないのは、パリ・バスティーユでの《シチリアの晩鐘》(ヴェルディ)上演のときの、セルバン演出のプロダクション。

第4幕で、主役たちがワーワー歌っている(!)ずっと後ろで、一列横隊になった合唱団が、下手から上手へと、ドミノ倒しのような勢いで、右隣の人と手を絡めて行きました。

シチリア島民の暴動への決意が、ヴェルディのリズミカルな音楽のうえで、身体表現として雄弁に示された一場でした。もちろん、演出家のオリジナリティに拠るものです。

「どれくらい練習したんだろう?ものすごくスピーディーで、拍にもしっかり合って!」

感嘆しながら眺めていました。私がオペラ・グラスを使わない理由は、こういうところにもあります。全体を出来る限り見渡さないといけないのです。たまたま気づけて幸いでした。

この時は、批評も書いたので、バスティーユ側から舞台写真をいくつかご提供頂きました。とても有難いことです。

そういえば、昨日のMETライブビューイングの《魔笛》でも、似たような経験をしました。

あるシーンでの合唱団の配置に「あれっ!」となったからです。演出家の思想が端的に現れた一瞬で、深く感じ入りました。


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WCARS(一般社団法人国際総合芸術研究会)のブログです。ご参考まで。
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