演劇界の第一線で働いておられる人(評論サイドではなく制作者として)と突っ込んだお話をしたときのことです。

「●●●●介さんが新派に出るようになってから、◇◇◇◇郎さんは出なくなりましたね・・・」

「確かに・・・言葉が強すぎるとは思いますが、『格の違い』を認識されてのことでしょう」

他人から観た格と自分で感じている格とは違うでしょう。

自分で勝手に、格が高いと思っている人もいれば、その反対で、格が低いと勝手に嘆く人もいる。

私の感覚では、「格」は他者が判断するものであり、自分が考えることではないのです。

批評を書くとき、常に、格について考えざるを得ません。

主役ではなく二番手や三番手の役をクローズアップしたい場合、その明確な理由付けを入れておかねばなりません。主役の調子がたまたま悪かったから、調子が良かった他の人についてたくさん書くとか・・・・

ところで、先日、ジャンルの違いを改めて認識する機会がありました。

バレエ界では、ダンサーの格付けを所属する団で行っているため、出演者の人名をクローズアップする際には、その格付けを考慮しなければならないのだそうです。

でも、オペラ界では、誰ひとり、主役の地位を保証されていません。調子が悪ければ第1幕で控えのキャストに交代したり・・・一回の代演を機に、あっという間に主役に登りつめる人もいるのです。

私がじかに知るなかでは、大メゾソプラノのフィオレンツァ・コッソットさんもその一人でした。ジュリエッタ・シミオナートの調子が悪くなった時、コッソットがピンチヒッターを務め、そこからそのままスター街道をひた走ったわけです。

あと、オペラ界では、かつての主役級の人が、脇役で出てくることも時々あります。

ナタリー・ドゥセ主演の《椿姫》で、アンニーナ役をアデリーナ・スカラベッリがやっていた時は本当に驚きました。

スミ・ジョーさんがフィアカーミリ、シェリル・ステューダー女史がアデライーデというキャスティングの《アラベラ》の公演評も読みました。

本人たちが納得して出ていればそれで良いのです。

マリリン・ホーンも《ペレアスとメリザンド》のジュヌヴィエーヴをやって欲しいと強く頼まれて引き受けたことがあります。出番が少ししかない母親役ですが、彼女の答えがふるっていて「他の幕で拭き掃除したり掃き掃除したりしなくて良いのなら、出てあげても良いわ」とのことであったそう。

歌の出番のないシーンで、助演者的にあれこれやらされるのは疲れる、と彼女は冗談交じりに言ったのでした。

バレエ界の厳しい序列に比べると、オペラ界はキャスティングはまだしも緩やかです。

バレエ界の場合、ダンサーが現役でいられる年月は短いから、主役級の人々には出番の機会を安定させてあげるべきなのかな ー いろいろ心配せずに練習に打ち込んでもらうべく ー とも思います。

オペラ歌手の場合、昔よりも平均的な活動年数が伸びていて、50代で世界中で活躍する歌手はいま本当に多く、60代に突入しても大活躍し続ける名手もいるから、バレエの厳しさとはそこがちょっと違うのでしょう。


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告知の投稿です。

岸純信が代表理事を務めております一般社団法人国際総合芸術研究会(WCARS)より、「オペラ研究家岸純信が語り下ろすDVDシリーズ」として、二つのラインナップを発表し、お陰様で、それぞれの第2巻を、Amazonで10月4日より発売開始しました。

まず、
『オペラ講座第2巻 ‐ 人々の接し方』は、岸純信著の大学生向け教科書『簡略オペラ史』第1章の内容を映像で補充、解説するものです。著作権の関係で、オペラの映像や音声は使用できませんので、すべて、岸純信が画面に向かって語り下ろしました。ジャケット上のポートレートは、作曲家マイヤーベーアのイラストです。


オペラ講座第2巻

続きまして、
『オペラ徹底解説』シリーズ、新発売の第2巻はビゼーの《カルメン》がテーマです。こちらは、有名オペラ1作を徹底的に語りつくすものでして、岸純信の語りに加えて、ナレーション及び原作戯曲のセリフ朗読(抜粋)が入ます。また、巻末には、マリア・カラスの《カルメン》スタジオ録音(1964年)から10分間弱の抜粋を、附録音源として収録しています(本当に光栄なことです)


オペラ徹底解説《カルメン》

ちなみに、この《カルメン》では、普段、岸純信が曲目解説を書く際に参照する楽譜や論文類を纏めて紹介しています。皆さまのご参考になれば幸いです。

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これらの、DVD2シリーズは、今後も続々と発売の予定です。パッケージデザイン、映像の編集、ナレーションなど、当会の会員諸氏がそれぞれ得意分野を担当しています。手作りのDVDですが、皆様に広くご活用頂ければ幸いです。

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