というニュースがフランス語で出ていて、訴えた女性歌手の名前も明記されていました。

あれ、この人を知っている・・・

確認してみたら、日本でもディスクが出ている人で、そのディスクの国内版解説を私が書いていたのでした。だから、名前も覚えていたし、声もそのあと浮かんできたのです。メゾとソプラノの間に位置するような色の濃い響きの歌い手です。

状況を確認してみると、出演したオペラの中に「性愛的な行為を含む場面」があり、そこで、相手役の歌手に余計なところまで触られて怒りが爆発したのだそう。

「リハーサル中に止めてと何度も言ったのに止めなかった。パリだけじゃなく各地で巡演したので、公演がすべて終わるまではプロダクションを壊したくもなく、黙っていたけれど、終わっても怒りを抑えきれず、やむなく告発しました」

こんな感じで彼女は語っていました。本当に気の毒に思います。

ちなみに、このオペラ公演は、パリのオペラ・コミック座が企画したもの。世界初演の新作です。ついこの前まで音源がラジオ番組のアーカイヴに残っていたけれど、いまはそれも消去されました。

ところで、この女性歌手としては、オペラ・コミック座での出来事であったからこそ、告発もしやすかったのだと思います。

20年前の低迷期を乗り越えたコミック座は、いまや、世界中から人を集める歌劇場として復活著しいのです。この十数年来は特に「フランス・オペラの名作を復活させる」プロジェクトを熱心に続けていて、オベールの《ポルティシのもの言えぬ娘》《フラ・ディアヴォロ》やエロルドの《ザンパ》《プレ・オ・クレール》など大成功していました。最近だと、グルックの《オルフェとウリディス》のベルリオーズ版が見事でした。黒を基調とした舞台で歌声も秀逸。

ちなみに、ここは、広報さんもとても優秀で、私も舞台写真を何度も貸与頂いて、公演レポートをたびたび『音楽の友』に載せさせてもらったほどです。昨年行ったときは、「見られなかった演目のプログラム」を事前に発注しておいたところ、客席までもってきてくださってびっくりした覚えがあります。なんといいますか、和の心も感じさせるような組織なのです。

そのように活気ある歌劇場であり、組織の中の風通しも良いから、くだんの女性歌手もきちんと訴えることが出来たのだと思います。首脳陣もすぐさま声明を出していました。

セクシャルハラスメントというと、オペラのドラマでは《トスカ》のスカルピアのやり口がもっともわかり易い例でしょう。

一方、今回の騒動では、リハーサルや実演の場で、エロティックな仕草を伴うシーンの中で、相手が勝手にやり過ぎた、ひそかに迫ってきたというのがなんとも。歌って演技している最中に、よくそんなこと出来るな!とも思う。


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