かなり遠方から講演会の依頼があり、スケジュール帳と照らし合わせてしばらく考え込んでしまいました。5分ほど。

私にしたら珍しいぐらいの長考です。拙速が売りですので。

しかしながら、結局はそのご依頼を受けることにしました。

まずは何より「個々人で視点が違うこと」を伝えねばと思ったからです。

舞台芸術の鑑賞法に正誤は無いのです。その人が見たまま、感じたままでよい。

ただ、時々「勘違い」というものがあるので、それについて、専門家の立場からサジェスチョンすることが一つ。

また、見る場所によっても違ってくるのだということを改めて伝えたいのです。

以前、目のとても悪い評論家の方がおられ、最前列に好んで座っておられました。

それはその人の選択であるわけですが、舞台の評論をする場合、最前列に座っていると気付きにくいこともあります。舞台の全容を眺めるには、一階席後方や二階席の前列の方がやりやすいのです。マリア・カラスが《シチリアの晩鐘》の演出を行った時、一階席の前列に座ってあれこれ指示したので、舞台全体のダイナミックさに欠けるきらいがあったと、トリノ歌劇場の元の広報さん(パリのカラスのアパルトマンまで行って、演出を依頼した担当者二人のうちの一人)から伺いました。「なるほど・・・」と思ったものです。

このように、観客それぞれが好んで座る席によって、見え方が相当に違ってくる - そんなの当り前だろうと皆さん思うでしょうが、講演会の席で改めて伝える意義もあるのです - ということに注意を促したいとも思い、その遠隔地での講演会を受けることにしました。

私自身もこの前、パリで《ユグノー教徒》を二回見たとき、一階席と三階席でチケットを取ったので、当たり前ですが、見え方が相当に違うと再認識しました。また、それは、演出家の舞台空間の使い方によっても変わってくることなのです。

一方、日本で批評をさせて貰う際は、興行主さん側から指定された場所に座ることになりますので、こちらが席を選べるわけではないのです。そういった実情もお伝えしようと、伺うことにしました。一度心を決めると、あとは突進するのみなので、講演をとても楽しみにしています。

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オペラとバレエの海外鑑賞ツアーのお知らせです。2月下旬から3月にかけて、ヘルシンキでマスネの《タイス》(オプショナルツアー)、サンクトペテルブルクでアダンのバレエ《ジゼル》を観劇します。





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