キャラメルアメーバ -2ページ目

キャラメルアメーバ

小説ブログです。
なにもかもフィクションです。

10機の魚雷による一連の爆発で、アルマダは合計7隻の高速船を失った。


総勢12隻の孤軍であった彼らは既にわずかに5隻を数えるばかり、対する平軍は、開戦時からは大幅にその数を減らしはしたものの、依然数十隻の高速船と、大将船を含む6隻の中型船を残し、なおかつその中型船には一門ずつ大砲を備えている。


無勢にも程がある。


あまりにも分が悪い戦況を見て、部隊長の権限で岩崎千尋が撤退を即断し、彼が操るハヤブサをしんがりに据えて死に物狂いで追撃を振り切り、たった5隻のアルマダの船団は一昼夜をひたすら走りぬいて四国まで退いた。


目指す淀川の河口を目前にしての、屈辱の退却であった。


<第一部 完>


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第一部とかwww そんな構成だったの初耳なんだけど。(ガチ←)



「どうして・・・・あんなとこ大砲の射程じゃねえだろ」


敵船に向けていた照準器から顔を上げた櫂斗が呆然と呟いた。


彼の言う通り、毒蜥蜴が疾走していた辺りは、とっくに大砲の射程範囲の外である。


いくら狙いを澄ましても、その砲弾が届く距離ではなかった。


かと言って、追う平軍の高速船が撃ち込んだ弾丸が今の爆発を起こしたというのも考えがたいのだ。


瀬戸内水軍の高速船に搭載されたエンジンは、ガソリンや水素などといった可燃性の強い燃料で動くのではない。


同軍が誇る有能なるエンジニアたちが心血を注いで開発した、電解した海水と化学物質の混合溶液を反応させることで得られる特殊な気体燃料オロナミソCが、その駆動を可能にしているのである。


もちろん原動機にエンジンを使用しているのだから、その気体は可燃性である。


しかし実はこの燃料、引火点が恐ろしく高い、つまり、燃焼しにくいのである。


その燃料を燃やして動力を得るために独自に生み出されたエンジンは、耐圧、耐熱、耐湿に優れている上に高い強度を持っており、機銃の弾丸ごときでは貫通することはまずないと言っていい。


あるいは燃料タンクを撃ち抜かれたのだとしても、引火性の低いこの気体を爆発させるような事態にはなりえない。


いきなり船ごと木っ端微塵に吹き飛ぶような爆発など、まったく考えられないことだった。


けれどたった今目の前で、確かに仲間の船が爆砕されている。


もはや爆発物を直接船体に食らって、その爆発力で吹き飛ばされたぐらいしか原因として考えられない。


まさか、と、櫂斗の視線が一瞬宙をさまよった。


以前に、何かの折に塁から聞いたことがあった。


ふと頭をよぎった記憶をたどって、そのあらましを思い出す。


スクリューをつけた弾頭にエンジンを積んで泳ぐように水中を自走し、衝突した船を弾頭自体の爆発によって破壊することを目的とした兵器。


確か、ギョライとかって魚型の水雷で・・・・でも、実用化に漕ぎつけるにはまだ相当かかるって話だったはずだ。


どっかの誰かが完成させたって言うのかよ、あの天才より先にッ?


瞠目する櫂斗の前で、善之新の背中が張り裂けんばかりの思いにひずむ。


「うああああああッ」


見開かれた彼の目線の先では、その目と同じ色の炎が船を包んで塊と化し、もうもうと大量の黒煙を吐き出している。


新参の善之新である。


千尋や櫂斗を含め、隊員たちと知り合ってからの日は浅い。


それでも出港以来今日この時まで、寝食を共にし、生死を共にした、まぎれもない仲間同士である。


まして頭領たる彼には、彼らの命に対して責任があった。


悲痛なその叫び声が響いて数瞬後、再び海上で爆発が起きた。


「鬼苔・・・・ッ」


続いて3発目が、新しい水柱を立てる。


「胡蝶ォッ!」


弾け飛ぶ船体に成す術なく、ただその名を叫ぶしかできない善之新は、船の舷を掴んだまま、知らないうちに足元からその場に崩れ落ちていた。


「あああ・・・・ッ」


空気の壁になって押し寄せてきた4回目の爆風は自分の中まで吹き荒らし、まるで灯されていたろうそくの火が消えていくように感じられた。


何が起きているのかわからなかった。


もっと言うなら、目の前の光景の意味を理解することを、彼の心が本能に近いところで拒んでいたと言う方が正確かもしれない。


掴んだ船縁に額を押し付けた善之新の口から、あらん限りの思いを叩き付けるような絶叫がほとばしる。


「やめろおおおおおおおおおおッ!!!」


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この後ノシンは多分、スーパー●イヤ人にね、なれると思うよ。←



霧に紛れていた上に、善之新はこれまで船自体よりも砲弾に目を取られていて気づかなかったが、いざ注意して見てみれば、微風に揺れる軍旗が中央の帆柱に認められた。


大将船の印である。


わずかにレンズを下げ、揺れる視界に苦心しながら甲板を捉える。


人差し指に触れるダイヤルをチキチキと回してピントを合わそうとしたがうまくいかず、焦点を結ばない画像ではぼんやりと人影がわかるくらいで、大将の顔を盗み見ることはかなわなかった。


わかったからといってどうということもないのだが、自分が戦っている相手が誰なのかぐらいは知っておきたいような気がしたのだ。


無理か・・・・せめて名前だけでもわかったらいんだけど。


仕方なく善之新はあきらめて構えた双眼鏡を下ろし、周囲を見渡した。


さすがに数で圧倒しているだけあって、まったく無傷の船というのは、瀬戸内水軍の高速船にもなくなっているかもしれない。


遠い上に双方が動き回っているせいで視認はできないが、もう戦闘が始まって5分以上は経っているのだから、いくら精鋭揃いとはいえ多勢を相手にしているアルマダにも多少の被弾は―――航行不能にはならずとも―――あるだろう。


しかし被害状況は逆に平軍に顕著だった。


戦況としては、数で劣る村上水軍が明らかに押している。


水軍の船を追い回していた平家側の高速船の、半分も残っているだろうか。


そろそろ河口へ向かう潮時なんじゃないかと、素人同然の老婆心ながら善之新がそう思った時である。


彼の視界の端、船のすぐ横の水中を何か黒いものが貫いていった。


んッ?


影の正体はわからなかったが妙に気になって、思わず顔を向けて行方を追った。


何だアレ・・・・魚?


にしてはやけに影が大きいなと思う善之新を置き去りに、それはぐんぐん海の中を泳ぎ、波間に見えなくなった。


と、一瞬空間が縮むような錯覚の後、強烈な爆音がとどろいて、ハヤブサの後方で一隻の船が大破したのである。


ドオッという大気の震えが、息を飲む善之新のところまで押し迫ってきた。


善之新が爆発の直前に見た、横腹にトカゲのイラストを刻んだその船は、アルマダに籍を置いて数十年というベテラン隊員ペアの愛機だった。


善之新は目を見開いてハヤブサの舷に飛びつき、炎上した高速船へ向かって身を乗り出した。


「毒蜥蜴ッ!」


黒い煙とともに空へ吹き上がっていく炎が、離れていても頬に熱かった。


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すげえ船名ww昨日まで蜘蛛だったんだけど、30巻を読んで急遽変更(汗)


叩きつけるように言った櫂斗が再び敵へ銃口を戻すのを見て、自慢できるのか判然としないその内容に半ば唖然としつつも、誰にでも特技はあるのだなと、善之新は戦場に似つかわしくない感慨を抱いた。


肩をすくめて周囲を見渡すと、横の千尋に声をかける。


「おい、千尋サン」


「何だよ、河口突入だったらまだだぜ。おとなしく待ってろ」


「・・・・そのタイミングは、オレにはまだわかんねえから任せるけどさ、向こうの大将って、清盛なのかな」


「おまえなあ、あんな大物がこんな10隻ぽっちの海賊叩きに大坂くんだりまで出張ってくるワケあると思うか」


苛立たしげにエンジンがうなる。


「じゃあ誰だよ」


「知らんッ。黙ってねえとベロ噛むぞ。つーかむしろ噛め。噛んで黙れ。自決しろ」


「何でだよッ、オレのことは死なせないとか言ってただろッ」


つーかオレが死んだら負けだろーがッ。


「ふんッ」


おまえに関わっている暇などないと言いたげに、千尋は善之新の顔も見ないまま話を切り上げ、再び大砲の列へ船首を向けた。


彼が先ほどからしつこく同じことを繰り返しているのは、それが一番効果的な戦法だからである。


なるべく今のうちにムダ弾を吐かせて、河口へ入ってからの追撃を小さくしたい。


いかにも砲弾の雨に行き場を失って逃げ惑う小船の風情で、更なる砲撃を巧みに誘う。


砲撃手の先読みを外して鮮やかな急カーブを決め、見事に敵弾をやり過ごした千尋の妙技に素直に感じ入りながら、善之新はふと思った。


「そういや敵将ってどこにいるんだ」


自分のように前線に出て戦っているのだろうか。


まさか高速船に乗り込んでるなんてことはないだろうなと思いつつ、善之新は操縦席の横にかけてあった双眼鏡を手に取った。


「顔ぐらい拝んどきたいんだけど、こっから見えるかなあ。なあ千尋サン」


揺れに揺れる体を、踏ん張る足と背もたれを掴む片手で支え、覗き込んだレンズを敵陣へ向けた。


「うるッせえな、知らねえっつんだよッ。どっかに陣構えてんじゃねえの」


「陣? 港かな。つーかちょ、見えッ・・・・わざとやってねッ?」


ハヤブサが右へ左へ船体をひねって砲弾をかわすせいで、港の位置がめまぐるしく変わって善之新は狙いを定めることができず、双眼鏡を据えられないままあちこちを向いた果てに焦れて声をあげた。


こんなんでよく機銃なんか撃てるな・・・・デカい的って言ってたけど、あんなんSDカードみたいな大きさじゃん。


パパパパッと乾いた音を立てて撃ち込んだ弾で、また敵を撃沈させたらしい櫂斗の凄腕に改めて感服する。


「おまえからかってる暇なんかねえよ」


言葉とは裏腹に千尋の顔には揶揄するような笑みが浮かんでおり、その意識がゼロだったとは思えなかった。


「つーか、つまんねえこと話しかけんな。集中できねえだろ」


いなされた善之新は、ちぇッと双眼鏡を構え直し、相変わらず酔いそうなほどに揺れる視界に並んでいる大砲船の真ん中あたりに、白揚羽を抱く赤い軍旗がひときわ多く並び立っている一隻を見つけた。


あれかッ。


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これで伊織が大将の椅子にどーんと座ってたら笑うwww



相変わらず霧の晴れない戦域一帯に広がったアルマダの面々は、それぞれ数隻から十数隻、悪くすれば数十隻の敵船の追撃を受けていた。


しかしこの際、船舶の性能自体を比較するなら軍配はアルマダに上がるだろう。


なにしろ洋上最強を自負する海戦のプロ集団、しかもその精鋭を集めた斬り込み隊を支える船である。


同じく船員の操縦の技術も、そこらの水兵がかなうレベルではない。


緩急をつけて逃げて行く餌におびき寄せられた平軍の船は迂闊にもその射程内に入り、船尾に取り付けられている機銃の餌食になった。


機関部に損傷を受け、次々と海上に置き去りにされていく。


しかしながら、いかんせん、あまりにも数が違う。


撃っても撃ってもその後から、まさに霧のように湧いて出る敵影に、アルマダに長く籍を置いて先代頭領の信頼も篤いベテラン兵の1人はその赤ら顔を渋くした。


「キリがないのう・・・・このままじゃ弾切れじゃ」


視界は悪く、敵に追い立てられる焦燥が苛立ちに拍車をかける。


追ってくる敵船が見えないほどではないが、その後ろにまだ何隻も控えているだろう。


淀川の河口を目指す、その合図が待ち遠しい。


櫂斗の号令で一斉に散った彼らだが、何の目論見もなくそうしたわけではない。


いずれ頃合いを見て、全船が一挙にそれぞれの方向から、淀川河口へ突っ込む算段である。


淀川は比較的川幅の広い河川であり、その河口も大きく広がっているのだが、当然今現在彼らが攻防を繰り広げている湾内とは、比べるまでもなく狭い範囲になる。


そこへ突入するタイミングにズレがあると敵船まで一緒に淀川に入ることになり、水域が浅く狭くなるそこでは、操舵技術や船舶の性能などというものよりも、単に数が物を言うことになりかねない。


つまり物理的に逃げ場がなくなるわけで、船の多い平軍に囲まれてしまうというわけだ。


だからこそ、呼吸を揃えて、時を合わせて行動を起こさなくてはならない。


その時宜を見極めるのも、隊長船ハヤブサの役割である。


水を蹴立てて敵船の間を駆け巡り、散発される機銃をよけ、返り討ちにしながら、アルマダの総員がその合図を待っていた。


過ぎるほどざっくりと大雑把な事前の打ち合わせにもかかわらず、触れられなかった細部にわたって全船の意思疎通に一糸の乱れもないのは、さすが精鋭部隊といったところで、各々が踏んできた場数と兵士としてのセンスのなせる業である。


善之新は、操縦席の横で揺れる体を支えながら戦域を見渡していた。


とどろく砲声がいとまなく耳をつんざき、さらに気分を高揚させる。


不思議と恐怖は感じなかった。


自分を狙って放たれる砲弾が、不気味な黒光りとともに霧を裂いて眼前に落ちてくるのだが、善之新はそれを睨みつける胆力を見せた。


間抜けなアーチを描いて善之新の頭上を通り過ぎたそれは、着弾した先で平軍の高速船を巻き込んで爆発した。


船尾から、機銃の音が聞こえてくる。


櫂斗が仲間の援護射撃を行っていた。


船上から照準を定めて狙い撃つというのは、見た目よりもずっと難易度の高い芸当である。


平軍の機銃は、その性能のせいもあるのだろうか、いまだ一隻も仕留められないでいる。


ましてその船が船尾を振って急旋回を繰り返しながら砲撃の波に煽られているという状況では、搭乗員は船にしがみついているだけで精一杯のはずであった。


しかし櫂斗は、千尋の操縦によって縦横無尽に疾走するハヤブサの上で、敵の高速船を機銃に捉える。


青みの強い褐色の瞳をキラキラと光らせて、まるで夏祭りに射的に興じる子供の顔をしている。


けれどその腕は子供どころか、はるか先、射程ギリギリの敵船の横腹に、たったの数発で正確に致命傷を与えていくのだ。


「何だよ櫂斗、やればデキんだなッ。オレおまえのこと誤解してたわ!」


爆音に消されまいと善之新が大声をかけると、櫂斗が目をむいて振り返った。


「おまえッ、オレを誰だと思ってんだ! 全国射的大会怒涛の12連覇してんだぞッ、あんなデカい的、外すわけねえだろがッ!」


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ああ、また変な属性つけちゃった・・・・ゴメンね、かーくん。