「カ、うわッ」
3時の方向・・・・魔ンションの方角からすっ飛んで来たその勢いで両腕をつかまれて、カイもろともフェンスから空中に投げ出される。
なんとか空中で体勢を立て直そうとして翼を動かしたけれど、とっさのことでバランスを崩していた上に雨も風も強く、暗い世界に内側から発光して白く青く流れる天の川のたもとに、半ば落っこちるようにして着地した。
「こんな、雨ん中・・・・おま、どこに行くねん・・・・」
全速力で飛んできましたという風情の彼は、あえぎながら継ぐ息が切れ、オレを捕まえているというよりはオレに掴まっている感じだ。
「美咲のとこだよ。カイ離して、オレ行かなきゃ」
「・・・・オヤジに言われてまさかと思って来てみてんけど・・・・ホンマ、頼むわ」
頼んでるのはこっちだよ。
「離してってば」
カイの手を振りほどこうとしたとたん、罵声に噛み付かれた。
「離せるかッ!」
腕を戒める力がいっそう強まり、指が食い込んで痛いくらいだった。
「翼は?!手術はどないすんねん!今のおまえ一日で往復飛べる体力なんかないやろッ、アラスカあたりで墜落すんで!」
「それは・・・・ッ」
それは確かにその通りで、さっき帰ってきたばかりでまた人間界へ行くのは、今のオレには相当な負担だった。
その上今日中に再び戻って来なくてはならず、それができなかったら、翼の再生はきっと間に合わない。
もしもそうなれば、オレは生涯隻翼で、少ない魔力で命をつないでいくしかないんだ。
オレの場合ウィザードはともかくソーサラーの低さは致命的で、一人前の悪魔どころか、彼らに使役される使い魔あたりに堕ちたりとかってこともありえる。
傍から見ているカイにしたらこんなの愚行以外のナニモノでもないわけで、彼はさらに正論を説いた。
「そもそも行ってどないすんねん、もうおまえハレルヤやめてんぞ?!美咲なんかもう関係あれへんやろ!」
だけどオレのテンションはすっかり上がりきっていて、とにかく美咲のとこへって、それしか考えられなかった。
「やめたからウィザード使いに行くんだ!ハレルヤとは関係なく、オレが行きたくて行くんだよッ!」
離せッ!!
火事場の、ってやつなのか、これまで腕力で勝ったことのないカイを睨みすえて、オレは彼の腕を跳ねのけていた。
反動でカイが背中からフェンスに突っ込み、激しい動きに水しぶきが飛ぶ。
「何があったかわかんないけど、美咲の不幸ゲージが急上昇してる・・・・食い止めなくちゃ」
「アホ、おまえ翼半分やねんで、これ以上魔力使てもうたら!」
再びオレに伸びた彼の腕を、大声で制した。
「美咲を幸せにできるんなら、死んだっていいんだ!」
目を見開いて動きを止めたカイを、思いのありったけを込めて見つめる。
「カイごめん・・・・オレ、行くよ」
わかって欲しい、どうか。
夜の雨の中をバリアも張らずに飛んで来てくれたその友情をもって、オレの思うようにさせてほしい。
だけど彼の答えは、苦しげに固く呟かれた。
「何で、人間なんかにそんな・・・・オレには、・・・・理解できひん」
ゴトリと音を立てて自分の中に重たく落ちたその言葉すら、片翼に背負って彼に背を向ける。
身動きもせず、声も出さず、多分オレを見てもいない彼を残して、人間界へ。
ずっと憧れてきた夢より、代えのきかない命より、初めて与えられた友情より、誰より何より大切な、きみのもとへ。
↓ニッチにも理解できひん・・・・美咲ってそないにええ女か?↓
↓濡れそぼつ白黒悪魔・・・・暖め合わないなんてヒドイわッ↓