ポチッと聞きながら…。
中学の時こんなことがあった。
中学は公立であるが寒い時期だけ制服のブラウスの上に紺のセーターを着ても良いことになっていた。
冬のある日のことだった。
ルカは、ちょっと変わった子だった。なんの理由か分からないが、たまに何週間も学校を休んだりする癖がある、少し不思議な存在の子だった。
同じクラスだったけれど、あまり関わりもなかったのであるが、ルカの不登校を治すために、先生から友人として振る舞って欲しいと頼まれて、私たちのグループに入ることになった。
ルカはそれを知らずにいたが、突然できた仲良しグループにウキウキとしている様子がわかった。
ある日、グループの中のひとりのサユリがちょっとかわいいカーディガンを学校に着てきたことが話の始まり…。
そのカーディガンがどんなものだったのか忘れてしまったが、みんなの羨望の的のカーディガン(笑)
かわいいね。
いいな…それ。
それを褒めそやす皆の真ん中でサユリはとっても嬉しそう。
ね、どこで買ったの?
お母さんが買ってくれたの?
次の時間は体育だった。
更衣室に移動してバタバタと着替えを済ませて、体育の授業が始まり、何事もなく終了。
戻って、再び着替えをしようとして、サユリが声を上げた。
私のカーディガンが無い…!!
あれ、おかしいな、ここに置いたはずなのに…。
ザワザワと皆で探すが、見つからない。
本当にオカシイよね。。。
なんで無いのかな??
とりあえず、寒いので体操服のジャージをカーディガン代わりに羽織って次の授業に出た。
なんでだろう??
オカシイよね…。
と、ルカの姿がなかった。
早退したのかな?
なんだか、ザワザワとその日は終わり、
翌の日の朝、
ルカが現れた時に一同は息を呑む。。。。
そのカーディガンを着ていたのだ。
それ…、ねえ、それ、サユリの。。。
なんでルカが着てるの?
誰も、盗んだなんて言わないけれど。。。
怪しいとは思った。
ごめんなさい、これ、サユリのカーディガン。
そうなの。欲しかったから。。。
ごめんなさい…。
ルカは何度も謝る…。
わんわん泣く。
その場を、どうして良いかわからなかった。
盗んだなんて。。。。
どんな気持ちで??
しかもそれを堂々と着てくるなんて。。。。
なんで???
私たちグループ全員、先生に呼ばれた。
「ルカには不思議な癖がある」ということ。そしてそれは、持ち主から関心を得たいと思っての事だということ。それを女性の保健室の先生からゆっくりと話されたのを、なんだか怖いような悲しいような、奇妙な気持ちで聞いていた事を覚えている。
「だって、サユリから関心や友情が欲しいのならば、そんな事したら逆効果じゃないですか!?」
皆が皆そう口々にその矛盾を訴えた。
「それは、ね、難しい病気なの。
「悲しい病」っていう病気なの。
いつか大人になって、世の中がわかってきたら、みんなもわかるかもしれない。」
そう先生は言って、話は終わった。
ここで話したことは、絶対に口外しないように、みんなは暖かい目でルカを見ること、と先生は言ったが、当時は納得がいかず、口をへの字にして職員室を後にしたのを覚えている。
悲しい病…
ね。。。。
子供だった私は、そんな病気があるのかと、訝しく思った…。
大谷翔平の元通訳の話を聞いて、そんな事を思い出した。
それから何十年も経って、ルカを地元のスーパーマーケットで見つけたが、声をかけることはできなかった。
普段着で、男性と野菜を選ぶ姿に、なにか、そっとしておいてあげたくなったからだ。
私は、こっそりその場を離れた。
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